小説

『魔女がもたらすもの』夜月朔夜(『白雪姫』『シンデレラ』『かぐや姫』『ロミオとジュリエット』)

 女は七時半を過ぎた頃に、一人でやってきた。いつも周りにいる取り巻きは一人も連れていなかった。
「お、ちゃんときたんじゃん、アンタにしちゃ偉いじゃん?」
 昨日とは打って変わって、随分と機嫌が良い様子の女に、違和感を覚えた。てっきり、授業の前にいじめられたり無茶なパシリをさせられて笑い者にされると思っていたのだ。
「つか、寒くないこの教室? この時間暖房入ってねーのかよ。手袋外せねーし……」
 さっさと済ませてあったまりに行くか、と言い女はカバンを漁る。
「実はさー、アンタに頼みたいことがあってね」
「た、頼みたいこと……ですか?」
「そーそー。あ、これこれ!」
 ジャーン!と取り出したのはピンクのリボンでラッピングされた可愛らしい小さなギフトバックだった。
「これをさ、竹桐に渡して欲しいのよ」
「え、ユキちゃんにですか?」
 思いがけない相手の名前が出てきて、思わず昔から呼び慣れた愛称が口をついて出た。
「“ユキチャン”? 何、アンタら友達だったの?」
 麗羅の言葉に女は驚いたように聞いてきた。それを受け、失言だったと麗羅は慌てて否定をする。
「ち、違います…! お、幼馴染だっただけで…!今は全く話すらしていません……」
 その慌てっぷりに女はこっそりとほくそ笑んだ。
(思いの外、コイツ使えるぞ)
「ふーん? 仲違いしたって感じ? ま、アンタ根暗で陰気でうざったいから、ああいう子とは相性悪そうだし仕方ないんじゃない? てか、ちょうどいいじゃん。アタシさ、竹桐とこの前喧嘩しちゃってさー。仲直りしたかったんだよね。で、お詫びの印として、このクッキーを竹桐に渡したいんだけど、アタシが渡したら拒否られそうじゃん? だから、アンタが渡してきてよ。ついでにアンタが作ったことにして、アンタも便乗で仲直りしちゃえよ。このクッキーを竹桐が食べきった後に、アンタが感想聞いて、『美味しかった』って言われたら、実はアタシが作ったんだってバラして、アタシも仲直りって、どうよ?」
 正直、ただクッキーを渡させるというのはなかなかに怪しいと女は思っていた。そんなところに、実は麗羅が白雪の幼馴染と聞いてこれはいけると思った。麗羅のキャラ的に、詳細を口で説明するのは下手すぎるため、伝える言葉を限定させるために仲直りストーリーを即興で作り上げた。友達のいない麗羅のことだ、昨日の今日で自身の恋人が白雪に振られたことはまだ耳に入っていないはず。今日中なら、このクッキーを麗羅から白雪に渡させることは可能だろうと、女は瞬時に計算した。
 そんな女の思惑を知らない麗羅は、彼女の言葉を半信半疑で聞いていた。

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