小説

『高貴な姫君』中崎杏奈(『竹取物語』)

 かぐや姫はたいそう泣いておりました。地上がどれほど恐ろしい場所だったのか、迎えだと気が付くこともなく駆けだされてしまうのです。
 私たちは一刻も早く不浄を取り除いて差し上げなくてはと必死に探して、ようやくお話を聞いていただけたときには、姫は全身から血を流されそれはそれは哀れなお姿でございました。
 脅える姫のお姿に、私たちは心が刺されたような痛みを耐えながらお伝えするのであります。
「ふがいないことに私たちは姫の出された難題にお答えすることができませんでした。私たちでは月までご一緒できません」
「ですから、少しでも近い空まで」
 なおも逃げようとされる姫の体を、姫のためを思わばと縛りつけ、悲しみを称える美しい声がかれてしまわぬように喉を押さえて。
 そうして『かぐや姫』は薬をお舐めになったのです。

 
 とある大きくも小さくもない町の学校の一クラス。ここには町中で有名なとある少女たちが在籍していた。
 少女たちは皆一様に見目麗しく、そして当然のように仲睦まじい。輝く黒髪に珠のような肌。
「転校生?」
「そういえばいらっしゃいましたね」
「あまり仲良くはできませんでしたが」
「どちらに行かれたか、ですか」
 かぐやたちは笑う。何も知らない無邪気な笑みで。
「きっと、月に帰られたんだわ」

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