小説

『高貴な姫君』中崎杏奈(『竹取物語』)

 前の学校は少し遅れてて……よかったら勉強教えてくれないかな?
 こんなところで奇遇だね。もしかしたら趣味が合うのかもしれないね。
 かぐやには秘密で、憧れのあの人と二人っきりで。重ねる時間が多ければ多いほど焦がれてしまう。少女たちは心の底から想った。
 あぁ、彼だけの特別な『かぐや姫』になりたい。
 溢れて止まない想いを少年に余すことなくぶつける。少年は一度驚いた顔をして、困ったように眉を下げる。
 いわく、他のかぐやたちも同じなのだと。姉妹のように育った私たちは皆考えることは同じのなのだと。
 少年はそう話した後、全員に同じことを聞いていると前置きをして語りだす。
 いわく、彼は探し物に来たのだと。仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の玉、燕の子安貝。名だたる宝物ばかり。
 なんてこと! 今度は私たちが彼に尽くすのだ!
 まるで五人の大臣たちのように、今度は私たちが必死に、彼と言う月を手に入れるために。足掻きもがくのだ。
 少女たちは正しく理解していながらも迷うことはなかった。周りを顧みず、すべてのものを利用して、あらゆる手を使って、無理難題を彼の為に。
 月を見て泣いていた弱々しいお姫様ではなく、自分の手で月へと手を伸ばす。

 歩いて、走って、黒い髪をボサボサにして、白い手足を傷だらけにして、いつの間にか築きあげてきたすべてを失って、見てしまった。
 そう言えばそうだった。五人の大臣たちは結局宝物を探すことはできず選ばれなかった。そもそも初めから『かぐや姫』の心は大臣には向いていなかった。
 少女たちとは真逆な美しい茶髪。仄かに青い瞳。彼女は異国の血か混じっているのだと風が囁いてくれた。
 彼と並んで歩くその姿は絵になっていて、呆然と見送るしかできない。
 羨ましい。隣に立つのは私だったはずなのに。
 甘やかな笑みを浮かべた二人を見て、ふと我に返る。血のにじむ手のひら。自慢だった美しい容姿はとても人には見せられない。
 恥ずかしさに走ってたどり着いた教室には、久しぶりに集まる少女たちの姿。ボロボロになった体で顔を青ざめて、体を抱きしめて。
こんな時も同じなのね、私たち。
「恥ずかしいわ」
「こんな姿でいられない」
「どうしちゃったのかしら」

1 2 3 4 5