小説

『疑似恋愛』太田純平(『擬似新年』大下宇陀児)

『デート編』

 新橋の居酒屋で二人が飲んでいた。
「おすみません! お注文を!」
 店員が来て、女の方が先に注文を告げた。
「アタシGFSで」
店員が困り顔で「ジーエフエス?」と訊き返した。
「グレープフルーツサワー」
「……」
「えっと、私はおビールで」
 注文を取り終えた店員が、怪訝な顔を浮かべながら去って行った。
「おじさまとこうやって飲むのSだね」
「おエス?」
「初めて」
「……キミねぇ。その『おおじさま』って呼び方やめてくれないか。こっちはね、お入社してお三十年目だよ? せめて『お先輩』だとか『お丸川さん』とか、お敬意をもって――」
「G」
「おジー?」
「ゴメン」
「……」
「だって丸川さん、田舎のおじさんにMSKなんスもん」
「おエムエスケー?」
「マジそっくり」
「……」
「だからね、入社した時から、妙にSKK持ってんスよ」
「おエスケーケー?」
「親近感」
「……実は私も、キミに、お親近感が湧いていたんだ。というのもね、ほら、おレディースのお靴屋なのに、お一人だけお男性だろう? だから私、他のお社員達にお白い目で見られ続けてきたんだ。だけどね。キミがお入社して、こんな私にお積極的にお話し掛けてくれるようになって、私もね、お本心はお嬉しかったんだ」
「ウチらってさ、BFっつーか、マジNDだね」
「どういう意味だい?」
「バカな二人。似た者同士ってこと」
「……」

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