小説

『疑似恋愛』太田純平(『擬似新年』大下宇陀児)

『出会い編』

 検品作業をしている男の前に、彼女が憤然とやって来た。
「マジKKなんだけど」
「おケーケー?」
「カチンと来た」
「……」
「おじさま聞いてくれる?」
「おおじさま」
「王子様? 誰が?」
「あ、いや、『おじさま』って言うから――」
「とにかく聞いてくれる? いま下の階でSKしてたんだぁ」
「おエスケー?」
「接客」
「……」
「そしたらぁ、いかにもカネ持ってるMが来てぇ」
「おエム?」
「マダム」
「……」
「でぇ。そのM、靴十足出せっつんだ十足。一足ずつ試せばイイのに、一気に十足だよ? でぇ。十足TBした挙句――」
「おティービー?」
「試し履き」
「……」
「十足TBした挙句、結局そのM、一足も買わねぇでやんの。マジKKっつーか、HTなんだけど」
「おエイチティー?」
「腹立った」
「……」
「おじさま悪いんだけどぉ、今日終わったあとN付き合ってくれる?」
「おエヌ?」
「飲み」
「……おおじさまでよかったら」

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