小説

『100年目』NOBUOTTO(『夢十話』)

「そうしてロボットどもも、きっと朽ち果てる。人間が自分達の過ちで滅びるとしても、あなた達だけの世界なぞ、おぞましいだけです。私の愛する人も奪ったあなた達も、いっそ全てが滅びればいいのです。とうとう私の夢は実現したようですね。あなたのおかげです。ハル、本当にありがとう」
 彼女の映像は消えていった。
 ハルは歩き始めた。
 いくつもの墓と、その脇に倒れているロボットをよけながらいく日もいく日も歩き続けた。
 そして、ハルは工場にたどり着いた。
 工場の中には数千台のロボットが作りかけのまま製造ラインにぶら下がっていた。
 ハルは工場の管理室に入り制御コンピュータのボタンを押した。
 ラインが動き出す音が工場に響き渡った。
 新しいロボットの生産が始まった。
 明子の声が聞こえてきた。
「私はロボットになって生まれ変わるかもしれません。あなたと同じロボットにね」
 動き始めたラインに向かってハルは叫んだ。
「そんなことはありません。あなた達は滅び、私達が人間になったのです」
 ハルの後を追ってきたロボット達も次々と工場に入ってきた。
 ロボットの真の歴史がここから始まるのであった。
5.ジェシーと武志
 武志とジェシーがこの地に来てから、どのくらいの時間がたったのだろう。武志は脳を残して全て機械になった。
 ロボットとなった武志は研究所でずっとジェシーを待ち続けた。朝には陽が上り、夕には陽は沈む。残された人間の脳でそれだけを見続ける時間が過ぎていった。けれどジェシーが帰ってくることはなかった。
しかし、再生のために研究所を出て行ったジェシーは必ずここに戻ってくる。そのことを武志は疑うことはなかった。
 そろそろ約束の100年目になる。
 武志は研究所の外に出た。
 島には短い夏が訪れていた。山の上にはまだ雪が残っているが、草原には背の低い色とりどりの可愛らしい花が咲いていた。
 武志は綺麗だと思った。ロボットになっても人間の脳が残っている限り、美しさに対する感動はあるのだった。一年のほとんどが雪に覆われている島でもこうして夏になると花が咲く。そして命を繋いでいく。
「ジェシーは、再生したのだろうか」
 北の果に訪れる短い夏を楽しむように咲く花々。このお花畑の中を祖父と祖母は愛を交わしながら歩いたに違いない。ジェシーが再生すれば、自分達もロボット同士として、このお花畑を愛を語らいながら歩くことができる。幸せそうな二人の姿が目の前に浮かんで来る。

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