小説

『100年目』NOBUOTTO(『夢十話』)

 自分達を守るために人類を滅ぼす。どのロボットもこの明確な目的には熱中した。しかし、その人類が滅びた時、自分達が望んだ輝かしいロボットの世界では、次に何をするべきかわからないことに気付いたのだった。次に自分達がやるべきことを言ってくれる人間がいないことを知ったのだった。
 これまでハルだけが黙々と行っていた墓づくりに参加するロボットが日々増えていった。世界中のロボットは、ハルの行動が伝染するように墓を作り始めた。墓を造ること、それだけを休むことなく続けるのだった。
 今では、どこもかしこも墓だらけである。
 そして、墓の周りには沢山のロボットが倒れていた。 
 ロボットにも寿命がある。新たなロボットをつくらない限り、どの創造物と同じように、滅びていくしかない。
 葬る人間がいなくなり、もう墓を作ることもできなくなったとき、明子の墓へ戻ったハルは墓も守るように佇んだ。
 それからずっと墓の前にハルは佇んでいる。
 墓をつくる必要がなくなった他のロボットも、ハルと同じように墓の前に佇み続け、そして、一台、また一台朽ち果てていくのであった。
 長い時間が過ぎた。
 明子が死んでから100年が過ぎた。
 彼女は死ぬ間際にハルに言った。
「私は100年後に生まれ変わります。その時私はロボットになって生まれ変わるかもしれません」
 ハルは彼女の話を静かに聞いていた。これまでと同様に明子の声はハルのデーターベースに録音されていく、
「いいえ、私がロボットになるのでなく、あなたが人間になっているかもしれないですね。100年。そう100年私を待っていて下さい。私が死んだら墓をつくって、そして待っていて下さい」
 だからハルは、彼女の死を見届け、彼女の墓を作り、それからも国中を周り墓を作り続け、そして明子の墓に前で佇み続けてきたのだった。
 今日が約束の100年目だった。
 ハルは墓を掘り起こした。そこには骨しかなかった。ハルはじっとその骨を見ていた。
 ハルの頭の中でカチッという何かのスイッチが入る音がした。
 ハルの目を通して、明子の姿が墓に映し出された。
 墓石に映し出された明子は100年前の美しさのままであった。
「ハルですね。私を見ているということは、あなたはずっと私を待ち続けていてくれたのですね」
 ハルは彼女へ手を伸ばすが、その手は明子の顔を通り過ぎていくだけだった。
「私は、人類がロボットを滅ぼそうとした時から、ロボットが人間を滅ぼすことがわかっていました。だから私はあなたに命令した。私が死んだら墓を作って100年、何もせずに待っていて下さいと。あなたはじっと私を待つ。きっとあなただけでなく他のロボットも同じようにただ待つようになるに違いない。何もせずじっと待つだけ」
 彼女の笑い声が墓の間に広がった。

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