小説

『100年目』NOBUOTTO(『夢十話』)

「はい、もうすぐ終わりです」
 ここにたどり着くまでにジェシーは沢山の信号を浴びてしまっていた。武志によって生み出された時の輝きは、まだジェシーの身体に残っていたが、動きも反応も明らかに衰えていた。
「僕の力では、もうどうにもできない。けど、君なら自分を救えるのではないかい」
「はい、それは可能です。ですが・・・」
「何か問題があるのかい」
 ジェシーから返事がない。
 武志はジェシーを抱きしめた。
「武志さんのおっしゃるように、私は再生できます。その準備をすぐにでも始めることもできます。ただ、私が再生するのに、10年、20年、いえ、100年もの時間がかかるでしょう。機械の私には決して長い時間ではありません。けれど・・・」
「そうだね、人間の僕には確かに長い時間だね。それでもね、僕は君に生きていてもらいたい。たとえ、そのための時間がどれだけかかってもね」
 ジェシーからの返事はなかった。
「ジェシー、僕を気にすることはないよ。自分の再生、君がずっと生きていけることだけを考えてみてくれないかい」
 ジェシーは「はい」と言って、そして止まってしまった。きっとジェシーは再生を始めたに違いない。
 武志も準備を開始した。時間は充分にある。
 武志は身体のひとつひとつを機械化していった。100年後にジェシーに会うためには武志自身がロボットになるしかない、それが武志の答えだった。
4.ハルと明子
 ほんの少しのロボットは信号から逃れることができた。
 人類は最高の頭脳を結集しロボット破壊兵器を世界中に配置した。しかし、ロボットは人類の予想以上に進化していた。
 人類が自分達の滅亡を望んでいることを知ったロボット達は、お互いに連絡を取り合い人間が踏み込むことがない廃墟に次々と集まっていった。自らを守るためには、残ったロボットが協力することが必要だと気付いたのだった。各国から集まったロボットは自分達の新しい「国」を作った。そしてスペックに合わせた役割分担を行った。
 ロボット達はこの「国」で行うべきことを最初に決めた。それは自分達を守ること、そのためにはこの国が地球の唯一の国となること、つまり、敵対者を滅ぼすことを決めた。 
 もっとも原始的で、もっとも本質的なことを人類から学んだのであった。 
 ロボット達は、ウィルス兵器を開発した。ほんの少しのロボットの頭脳だけで簡単に開発することができた。
 ロボットが撒いたウィルスは人類を容赦なく襲っていった。今度は人間が次々と息途絶えて行くのだった。
 人類が消え去るまでにほん数ヶ月あればよかった。

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