小説

『100年目』NOBUOTTO(『夢十話』)

2.憎悪の誕生
 人類が創造したと信じていたロボットは自らの力で進化を始めた。ある日を境に世界中のロボットが少しづつ、少しづつ進化していったのであった。多くの科学者がその原因を探り続けたが誰も解明することはできなかった。理由などはそもそもなくて、創造物全てが進んでいく道をロボットも歩み始めたとしか言えなかった。
 人類は自分達がコントールできないロボットの進化に驚異と恐怖を抱き始めた。そして、決して人類に手を上げることはないロボットを一斉に破壊する、根こそぎ消去する研究を始めた。
 根拠のない魔女狩りのような研究に反対する人々もいたが、そうした声は社会から排除された。見えない恐怖から始まった研究は成功し、ロボットの中枢を破壊する信号を発信する塔が世界中の到るところに建てられていった。
 最後までロボットを愛し守ろうとした者もいた。しかし、国の到るところに立てられた発信塔から流される信号から逃げ切るのは難しく、愛するロボットが止まっていくのを見ているしかなかった。
3.北の果の島にて
 武志はジェシーの額にキスをして言った。
「本当にもう終わりなのかい」
「はい」
 ジェシーは静かに答えた。
 武志とジェシーは、ノルウェーの北の島、雪に覆われた島の地下で暮らしていた。
 武志が人生の全てをかけて作り上げたロボットが寿命を迎えようとしている。ジェシーより自分が長く生きることなど想像したこともなかった。
 武志とジェシーは発信塔の信号が届かない、北の果の今はもう誰もいない研究所へ逃げ切ることができた。
ずっと昔、ここには宇宙の神秘を探るための大きな望遠鏡が建てられていた。そしてその望遠鏡を囲むように多くの研究者と家族が暮らしていた。しかし、宇宙への興味が人類から失くなり、この研究所も、ここで働いていた人、家族の記録も記憶も消えていった。
 武志の祖父は若い頃にこの研究所で祖母と出会い、恋に落ちたのだという。この北の果の研究所で美しい夜空を眺めて過ごした日々の話を幼い武志は何度も何度も聞いていた。祖父と祖母の心の中では、この研究所は生き続けていたのだった。
 人類の狂気から逃れてジェシーと暮らす地として、武志はここを選んだ。
 武志がジェシーと誰もいないこの街に来た時にも、その大きな望遠鏡はまだ空に向けられていた。その望遠鏡から宇宙を覗き見る人が誰もいなくなっても、望遠鏡はずっと宇宙を見続けていたのだった。
 それから武志はずっとジェシーの傍らにいた。
「やはり駄目なんだろうか」

1 2 3 4 5 6 7