小説

『書架脇に隠れる小さな怪人』洗い熊Q(『オペラ座の怪人』)

 私が音を聞いて図書室に飛び込むと、床や机場に散乱する大きな大量の本達。そして近くの格子窓のガラスの一枚が割れて外界からの風が吹き込んでいた。

 それを目の前に茫然と佇んでいる拓真君。遠巻きに図書委員の女子二人が。他に生徒は見当たらなかった。
「どうしたの!?」
 小走りにその場に駆け寄る。側にいた拓真君には怪我がないと見て取れて少し安心した。
 床に散乱した本を伺う様に私が座り込むと背後から――。
「にげろっ!!」
 男子の声が聞こえたかと思うと、本棚の影に隠れていた三人が走って図書室から逃げて行くのが見えた。
「ちょっと、貴方たち!」
 そう叫んでも立ち止まる筈もない。叫んだ勢いのまま、私は振り返り様に拓真君を見つめてしまっていた。
 思わずたじろいで後ずさりする拓真君。
 その彼の足元には割れて散乱したガラスの一部が。
「ダメっ! 拓真君!」
 ビクリと驚き、後ずさり止める拓真君。そしてぐっと泣きそうなった目を息と一緒に呑みこむと、彼はいきなり走り出して図書室を出て行ってしまった。
「あっ……」

 呼び止める暇もない。私は怒ったつもりはなかったのに。
 あの子がこんな事をするとは思えない。大体の経緯は想像できた。
 まあガラスを踏まなかったから怪我は為なかったようだし。

 図書委員二人の女子の話は想像していた通りだ。あの三人の男子が制止も聞かずに大きめな本達を掻き集め、卓上に本で出来た塔を作っていた。
 それが崩れて、一部の本が格子窓に衝突して割れる。遠巻きに見ていた拓真君が慌てて近寄って来ただけだと。

 やっぱり怒られたと思ったかな。
 睨みつけたから当然だよね。

 散らかった本達を拾いながら私はそう思っていた。
 割れたガラスは用務員の人が片付け、新しいガラスを差し込んでくれた。格子の一部だけだったので替えが直ぐに利いたのだ。
 二人の女子生徒も本を集めるのを手伝ってくれる。
「真理子先生、本を所定に戻すの?」
 本来ならそうしたいが、結構な数の本を持ちだしてくれていた。
「取り敢えずは分類通りの棚に入れるだけでいいよ。綺麗に並べ替えるのは今度にしましょう」
 重ための本を数冊、抱えながら本棚へ。大きめの本を選んだんだろう、棚の下部が空いている箇所が多数ある。腰を降ろし本を差し込んで行った。

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