小説

『書架脇に隠れる小さな怪人』洗い熊Q(『オペラ座の怪人』)

 保健室に連れて行った為に、この事件が学校側にも知れてしまった。
 単なる悪戯――で納めてしまっても罪はないが。
 教頭先生からはキツい小言を言われてしまった。彼等の親御さんからも同等の苦言があるだろうと覚悟はした。

 でも逢われた途端、親御さん達は私に向かって頭を下げ続けていた。

 この子達が申し訳ない事を。きつく叱っておきましたので。
 こちら側が謝罪の立場だと思い込んでた分、面を食らってしまった。
 何故にと訪ねると実は彼等の御両親の元に、あの図書委員の女子二人が直に訪ねて事情を説明してくれたのだ。

 真理子先生も拓真君も悪くない。
 図書室での悪ふざけを自分達が咎めると、三人が喧嘩腰で言い返して来たと。
 そこを拓真君は止めに入ってくれたんだ。

 虫を投げつけるのが正当な方法だとは賞賛は出来ない。でも御両親方は事情は理解してくれたのだった。
 結局この件は処分もなく、関係した子達への個別の対処だけで収束していた。
 拓真君には直接に話を訊きたかったが、担任ではない私は余りしゃしゃり出る訳にはいかない。

 今度来ればと思ったが、その後に彼は図書室に姿を現さなくなった。

 

 
 給食時間を過ぎての午後の始まり。休み時間に図書室に本を借りに来ていた三年生の女子に私は声を掛けた。

「ねぇ、拓真君ってどんな子?」

 彼女の図書カードを見て、拓真君と同クラスだと知って思わず訊いていたんだ。

 あの事件からは三週間以上は経っているが、一向に拓真君は図書室に姿を現さない。
 学校にちゃんと来ているのは分かってはいるが、わざわざ私が彼の元に出向いてしまっては押し付けがましいかと。
 逢ったら私に叱られると誤解している心配もあったが、彼から自然と来てくれた方が良いと思えたから。

 ただやっぱり色々と問題がある子だから、普段の学校生活でも何か支障があるんじゃないかと。そう虐めとかだ。

「拓真くん? う~ん……変わった子」
 最初、急な質問に戸惑った様子だったが、女の子はさらっと答えていた。

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