またか。ここ最近よくある事だ。また点検して貰わないと。
自宅に帰り、読み掛けの本に手を付ける。日付が変わるまで二時間半程。それまでに読み終えて寝よう。
そう思って本を手にはしたが、考えるのは目の前の本よりも彼の事だった。
何の事だったのか。それより拓真君が上階から降りて来た事が気になった。
旧校舎にクラスはない。あの時間はどの部屋も鍵が掛かっている。同級生の子の話の通り、彼はいつも旧校舎に忍び込んでいるのだろうか。
時折に行方知れずになる話にも合点がゆく。そうだとしたら何をしている?
やっぱりちゃんと話をしよう。逃げない様に。私も。
そう心に決めて、気分を切り替え本を手にした時。
――消防車のサイレン。耳障りな甲高い回る音が近づいて来た。
現場が近いのだろうか。好奇に駆られて窓から外を覗く。
見て驚いた。予想外に近所だった。
赤く揺らめいる明かりがモクモクと上がる黒煙を照らしてた。その幅は広く大きな建物だと想像できた。
――校舎だ! 私は着の身着のままに外へと走り出していた。
小学校に着いた時には、もう旧校舎は完全に炎に包まれていた。
大量に舞う火の粉と恐ろしいまでの黒煙。何台もの警告灯を回す消防車。パトカーも来ている。
消火作業を遠巻きに近隣の野次馬達。その中に私も、そして幾人かの同僚教師もいた。
動揺や落胆より炎に圧倒されていた。目の前の光景に現実味がなかった。明日を考えられない。そんな感じ。
私達、教師はただ見守るしかできない。
その人垣の前方に見覚えのある女性が佇んでいた。
拓真君のお母さん? 背後から見ても彼女の様子が変だ。近寄って声を掛けた。
「お母さん、どうされたんですか?」
振り返り見た彼女の顔。明らかに強張り、わなわなと震えても見えた。
「……拓真が」
「え?」
「今日はまだ帰っていないんです……」
それを聞いて私は息を呑んだ。
消防員の制止を振り切り教師数人と新校舎へと入った。
彼が居るとは限らない。ただ旧校舎には居ないという事実が欲しいだけ。私は拓真君の教室へと向かっていた。
教室に入ると外からの炎の明かりで赤一色。揺らめく光明の中で机の一つに、椅子で隠す様に置かれるランドセルを見つけた。