「やあ、親友。今日は張り切っているね。一段と嬉しそうだ」
そんな私を見逃さず、赤くて丸い親友は語り掛けた。全身からあつあつに元気を放ち、生命力が降り注ぐ。
この街で彼と顔を合わせるのは実に三日ぶりなので、昨日のことをかくかくしかじかと語って聞かせた。
「人の恋路はいいものだ」
太陽はしみじみ感想を言った。
「しかし君が羨ましいよ。俺はこう、爛々と照っているだろう。人から内緒話を聞くのが難しくてね」
「パンツの色が見たいだとか、盗聴器がどうとか、卑猥な話を聞かされるのも考えものだよ」
「信頼されている証拠じゃないか。ほら、あそこに君の言っていた男女が見える」
朧げな光しか持てないこの時間帯に関して、私はうまく世界を見ることができない。それを太陽も知っているから、詳しく解説してくれる。
「二人はなるほど、同じクラスなんだね。少年は随分と緊張の顔をしているよ――授業中だからかもしれないが――。と思ったら首をこっくりし始めた。随分遅くまで君と喋っていたのかな。しかし少女の方は堂々としているね。背筋も伸びて、ノートへ書く文字も整っている。でもあれは、板書を写しているわけではなさそうだ。何か詩のようなものを書いているよ」
熱くて明るい光は隅々まで行き渡る。内緒話なんてせずとも、この親友の前では隠し事なんてできはしない。
「なるほど、かわいい二人じゃないか。俺に見届けることができないのは残念だ。くれぐれも、今晩のデートについては明日教えてくれよ」
それにはしっかり約束して、それからは過去に見た美しい景色の話をした。
しかしその晩、私が括り付けたはずのデートを見ることは叶わなかった。
二人がいそいそと準備をして、西の森を目指すところを私は柔らかに照らしていた。
少年は白いシャツにカーキのチノパンを履いて、黒いコートを着込んだ。少女は紺のワンピースに、ちょっとカーディガンを羽織っただけで、風邪をひかないか心配になる。
最初に森に着いたのは少女だった。
西の森は深く木々が生い茂っているものの、その隙間から光を差し伸ばすことは難しくはない。
一際大きな木に身体を預けて、静かに待っていた。
「なんだか監視カメラにでも見られているようね」
一度だけ彼女はぽつりとそう漏らした。森の隅々に注意深く光を満たした私には、それがはっきりと聞こえた。
「なに。君たちがキスでもしようって時には見ないでおくさ」
聞こえているのかいないのか、彼女はそれに返事をしなかった。
少年が森に近づくにつれて、私は徐々に光をすぼめる。森に満たした光も引き上げてしまう。勿論、少年の足元を照らすことには余念がない。