小説

『目のあるメゾン』紗々井十代(『絵のない絵本』)

 「ねえ。彼はどんなパジャマを着ていた? 音だけじゃ分からないの」
 それくらいは教えて差し支えないことに思えた。
 「少年は紺色で星の模様が散りばめられたのを着ていたよ。首元までしっかり隠れた暖かそうなやつだった」
 「それなら風邪をひく心配はなさそうね」
 にっこり笑って少女は言う。やはり健気な女の子に見えた。
 「もしも彼と夜に散歩でもできたらどうだい」
 「それは素敵なことね。パジャマから着替えなきゃならないけど」
 素直な言葉を聞いて、私は純白の光をこぼした。
 「明日の夜、西にある森を訪れなさい。そこで彼に会えるから」
 「あなたが舞台を整えてくれるのね」
 存外彼女は不愉快そうな表情を見せる。
 「そういうのって、作り物みたいで嫌ね――勿論会えるのは嬉しいけど――。彼が自分で思い立って、行動を起こしてくれるのが嬉しいじゃない」
 「そういうものかな」
 「そういうものよ」
 それからうんと伸びをして、
 「私は身体が冷えてきたから、そろそろ眠るわ」
 と言った。
 「明日の夜に西の森に向かうわ」
 彼女が窓を閉める前に、私はそっと額へ口づけをした。

 少女と西の森で待ち合わせの旨を少年に伝えると、彼はいたく喜んだ。
 「作り物みたいで嫌じゃないかい」
 そう訊ねると、
 「何がだい」
 彼は犬みたいな顔で聞き返すのだった。


 ※


 私はその日、十四時三十分にひっそりと彼らの街の端っこに顔を出した。と言っても誰も気づかない。まだ青い空の端に丸い雲のように澄ましている。

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