「知っているのよ。私は彼の部屋に盗聴器をしかけているから。あなたが私の部屋にパンツを見に来ることはとっくにお見通しなの」
「ちっともお見通しじゃない」
私はびっくりして縮んでしまった。まん丸い身体が途端に細くなったから、道行く人はいよいよ不気味に思っただろう。一晩に二回も形が変わる月なんて!
「私は君の下着の色なんて知るつもりはない。ただ彼の恋路の助けになれないかと、そう考えてここを尋ねたんだ」
「そうなのね」
少女はあどけなく頷いた。その仕草など歳よりも幼くみえるというのに。
「大体なんで盗聴器なんだい。見たところ、君は随分とおしとやかな女の子じゃないか」
「私は彼に恋してるから。部屋で何を考えているのか知りたいのは当然じゃない」
「君はちょっと恐ろしいね」
そのまま雲の影に隠れてしまえたら良かったのだが、生憎の晴れ模様ときている。好きな人の部屋を盗聴するなんて、人参が好きだからと言って畑で泥棒を働くのと同じくらいゾッとした。
「私は彼に恋をしているだけよ」
「恋をしているだけってことはないだろう。危ないよ」
「危ないことはないでしょう。ちゃんと見えない場所に隠しているのよ。盗聴器」
きょとんとして彼女は言った。
奇妙な感じだが、しかしどうやら少年と少女は想いあっているようではあるのだ。
「程度はどうであれ。君が彼を好きというのは、たしかということだな」
推し量るように言うと、少女はこっくり頷く。
「しかしだったら君は愛を告白すればいい。彼の好意も知っただろう」
「そんなものとっくに知っているわ。彼、よく部屋で私の名前を呼ぶのよ。うわごとみたいに」
しかし彼女はこう続ける。
「だけど告白なんてできない」
「一体なんだってそうなるんだい」
私のまっすぐな光は、彼女の肌をしきりに撫でつけても胸の奥まで届かない。乙女心はプリズムのように不自然で、近づいたと思ったら遠くにいる。
「だって男の子から告白してほしいじゃない。女の子は」
「そういうものかな」
「そういうものよ」
彼女は神妙にそれから言った。