少年は首を横に振って、
「それは逆だよ。絵本作家が特別殊勝だったんだ」
と言った。
「男の子だったら好きな女の子のパンツの色を知りたいに決まってる。夜だって眠れなくなるくらいに」
そういうものなのだろうかと、私は頭を悩ませた。驚くべきことなのだが、彼の鼓動は、肌から立ち上る甘い香りは、恋する少年の純情なのだ。数多の恋を観測してきた私にはそれがありありと分かった。
「ためしにその女の子について教えてごらんよ」
そう促すと、少年は嬉しそうに女の子について喋った。
可愛らしい名前。彼女の授業中にピンと伸びた背筋が綺麗だということ。スカートのプリーツがパリッとしていること。笑うと浮き出るえくぼが愛らしいということ。
「パンツを見てきてくれるのかい」
「そうは言っていない」
この恋が曲がりなりにも本物であるなら、私は次のように考えた。
「もし君がその少女を愛していると言うなら、僕はその恋路の手助けくらいしてやれるかもしれない」
「それは本当かい」
少年は顔を綻ばせた。
「それでパンツの色も知れたなら、言うことなしだ」
あくまで下着の色にこだわる部分には疑念が残るものの、彼の恋心は本当だ。
今夜中にまた戻ることを告げると、私は少女の家を訪ねてみることにした。
私にとってどこへ行くにも時間がかかるということはない。ひょいと光の照らす向きを変えればいいのだ。
夜は長く、透き通った秋の空気は私の光を伸び伸びと行き渡らせる。
部屋の窓から顔を出す例の少女は、少年と同じく憂いた顔をしていた。乳色の光でそっと髪をすくと、こちらに気づいて彼女は微笑んだ。
「こんばんは。いい夜ね」
「そうかな。君にとってはそうでもないみたいだけど」
「ちょっと考え事をしていただけよ」
空気の澄んだ夜だけど、その編み込まれた絹のような肌を通しても、難解な乙女心はちっとも紐解けなかった。
「あなたに私のパンツを見せたものかどうか。それで悩んでいたの」
「なんだって?」
最初聞き違いかと思った。まさか少女が先ほどの少年の頼みごとを知るはずがないし、乙女の悩みとは到底思えなかったからだ。