有名な小説だ。何度も読んだし、というかそれを収録した本も持っている。部屋の本棚にある。
頷いてから、それでは今も着ているカーディガンも、レモン色なのだろうと、思う。
「レモン。黄金色のレモン。黄金色に輝く恐ろしい爆弾、檸檬。――ああ、そうね、金髪でも間違いじゃあなかったわよね、ごめんなさい。檸檬は黄金色なのよね」
彼女は。
手を伸ばし、僕の頬に触れる。
「積み重ねた本の群。貴方、よく図書館にいるわね。本が好き? 今までにどれほどの文字が、頁が、一冊一冊が貴方の中に積み重なったのかしら」
その手がひんやりと冷たいのは、彼女の体温の低さか、それとも僕の顔が熱く火照っているのか――。
「その天辺に、貴方の城壁の頂きに、檸檬を据えたらどうなるの? 爆発して、こっぱみじんになってしまうのかしら。ねえ」
彼女の。吐息が。ひんやりと。僕の頬に。
「檸檬(レモン)は、好き?」
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