小説

『青い空の下で君と』霜月りつ(『千夜一夜物語』)

 エディットはそっぽを向いている。
 ミチコはハンカチを握って、それでも涙は拭かず、じっと天の果てを見つめていた。


 船は順調に進んでいた。直に地球と交信不可能な距離まで達した。ここから先は、本当にトーマ一人だった。
 トーマはミチコが自分の中に入ってきたのを識っていた。彼が何か箱のようなものを設置していったことも。それは、トーマの意志で動かすことが出来た。
 トーマはそれを作動させてみた。銀色の箱は小さくカチリと音をさせ、その機能を動かした。
(……ミチコ)
 それは小型のホログラフ投影機だった。狭い部屋の中に、小さな青空が映し出された。そして、その下に立つミチコの姿……
(ミチコ……)
 ミチコは、笑っていた。時々それは失敗して、泣きそうな素顔が覗くこともあった。青い空の下で、ミチコはトーマに向かってだけ笑いかけていた。
(───ミチコ……ありがとな……)
 いつかきっと……トーマは今は夢を見ていた。
 いつか……時分の望みを叶えてくれる異文明に出会う。
 きっと……地球へ帰ってくる。
 ミチコに会うために……ミチコを生み、育てた地球に帰ってくる。 いつか……きっと……


 太陽系のはずれ、冥王星上空を浮遊している偵察衛星が、最初の異変をキャッチした。急を告げる信号は、アステロイド・ベルトのどれかに設置された中継機器を得て、12時間遅れで地球本星、及び月、火星のコロニーのメイン・コンピューターに送られた。
 それは巨大な流星群の襲来を告げていた。どこからやってきたのか、幅2000キロにも及ぶ無数の岩の塊が、約40キロ/宇宙時間のスピードで、地球めがけて飛来してくるのだ。
 太陽系にちらばる人類は、その調査も、迎撃も、避難すら順調に行えず、流星群に飲み込まれた。
 時に、西暦3006年。最初の外宇宙探査船が地球を出発してから931年たっていた。

 ガニメデ・コロニー 生存率32・05%

 火星ベース 生存率26・13%

 フォボス・エリア 生存率03・87%

 月エリア 生存率13・97%

 人工スペース・コロニー1、2、3 生存率08・66%

 地球 生存率09・12%

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