「つばめくん、ねえあなたも私を愛しているでしょう。どう?」
「わかんない。愛してるって、何?」
「私の目を見てよ」
顔をあげたつばめくんの目を真っすぐに見る。長い睫毛、憂鬱そうな瞳。つばめくんは私の目をじっと見た。私たちはしばらくの間そうして見つめあった。
「……ねえ、どう?」
「……うん。愛してる」
つばめくんは言った後、また顔をふせて、それからしばらく黙った後に、
「桃井さんは優しいね」
と言った。
私は、童話に出てきた母狐のように、まあ!と驚いてみせた。
私は彼に、愛していると言わせたことがものすごく偉業を成し遂げたように思えて、なんだかとても嬉しかった。
私たちははじめて下校を共にした。茜色に染まる校舎を二人で並んで歩いていると、小さな声で、つばめくんはこう言った。
「ほんとうに人間はいいものかしら。」