「それ、褒めてる?」
「いや、べつに褒めてはいないけど。でも嫌な意味でもないよ。つばめくん、打ち明けてくれてありがとう。きっと勇気が必要だったでしょう」
「うん……あー!」
つばめくんがいきなり大きな声を出して蹲ったので、私はびっくりして彼の方を見た。
「……緊張したあ」
でも、すっきりしたあ、と力く笑う彼の手のひらを、じっと眺めた。
そんなことがあってから私たちはさらに親しくなった。教室で話すことはめったにないけれど、でもふとした時に、あ、今同じこと考えているな、と思うようなことがあったり、そういうときは必ず目があって、お互いふっと笑ってみたり。つばめくんは教室ではいつも一人だった。いつもいつも一人だった。意地悪な男子は相変わらずあることないこと吹聴したりしているけれど、それに全く動じない(ように見える)つばめくんはかっこうよかった。
ある日、授業で好きな童話を持ち寄って発表するというものがあって、一人ひとつ、必ずクラス中の全員の前で朗読をしなくてはいけなかった。
お昼休みの後の、現代文の授業で、先生が思いついたこの休息時間のような授業。みんな、自分の発表時間以外は眠ったり、他に好きなことをしていたりした。
つばめくんは、狐の親子がでてくる童話をすらすらと読んでいた。彼の声は低く響いて心地よい。私は、あまり熱心に聞いて他の人に茶化されるのも嫌だったので、頬杖をついて、まあ一応聞いていますよ、という顔をした。本当はものすごくちゃんと聞いていたが。
「このお手てにちょうどいい手袋をください」
手袋を買いに、というタイトルの童話は、狐の子供が一人で人間の街へ手袋を買いに出かけるが、化けるのを忘れて狐の手を出してしまうものの、人間はちゃんと子狐用の手袋を差し出してやる、というとても短いお話だった。
つばめくんはそのお話を、まるで暗記しているようにすらすらと読み上げた。きっと彼にとって思い入れのある話なのだろう、ということが容易に読み取れるくらい、その語り口調はどこか熱っぽかった。
「―母ちゃん、人間ってちっとも怖かないや。
―どうして?
―坊、間違えてほんとうのおててを出しちゃったの。でも帽子屋さん、捕まえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖かいてぶくろをくれたもの」
教室のカーテンがふわ、と揺れて、その拍子につばめくんが持っていた絵本のページがめくれた。彼はそんなのまったく気にせず、まあ!と穏やかな声を出して、
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら。」