小説

『ぶっちぎりで勝ちますから、マジで』鷹村仁(『ウサギと亀』)

俄然やる気が湧いてきた。残り3週間死にもの狂いで走る。自分にはもう甘えなどない。その日はダッシュで家に帰った。

 10月21日、マラソン大会当日が来た。
 校庭には全校生徒が集まっている。各々準備体操をするもの、友達と話す人、突っ立てるだけの者。様々な人間がいる中に品川がいた。準備体操を黙々としている。
「よう。」
 先ずは軽く状態を聞く。
「あ、おはよう。今日は宜しくね。」
「おう、どう?調子は?」
「まあまあかな。取り敢えず怪我しないように頑張るよ。」
 笑顔で答える。状態は悪くないようだ。
「忘れてないと思うけど、これは勝負だからな。」
「分かってる。」
 品川は再び準備運動に戻った。こちらも少し離れて準備運動に入る。
「一位になれそう?」
 体操着を来た美雪が近づいてきた。
「ぶっちゃけ一位は分かんない。だけどメチャクチャ走った。とにかく品川にはぶっちぎりで勝つ。」
「頑張れ。」
「おう。」
 あれからとにかく走ったのだ。負けるはずがない。

 「よーい!」
 一瞬全員が静まり返り、「パン!」という破裂音ともに一斉に走り出した。長さは10キロ。練習中に作戦を考えたが、はじめから先頭集団につける事にした。10キロは長いようで追い上げるのが難しい距離だ。一度先頭に引き離されてしまったらそのまま終わってしまう可能性が高い。そしてスムーズに先頭集団につける事に成功した。品川の姿がないか確認したが姿は見当たらなかった。品川の運動神経から考えると今先頭にいないと確実に自分には勝てないだろう。悪いがこのまま勝たせてもらう。兎に角途中で気を抜く事はせずに走りきる。その事だけを考えて走った。

 「おめでとう。」
 先生から紙を渡される。着順が書かれている紙だ。途中で足が重く、口の中がガンガンに乾き、腕も重くてほとんど振る事が出来なかったが、気力だけでなんとかゴールした。ゴールした瞬間に地面に倒れこみ、仰向けになる。呼吸が荒い。仰向けになりながら渡された紙を確認すると『20』と書いてある。20位の意味だ。兎に角最後まで走りぬいたし、途中で油断することはなかった。品川には抜かれなかったと思う。最後の方はヘロヘロになりながら走ったので、周りを気にする余裕はなかったが最後の方で誰かに抜かれた気配はなかった。そして自分がゴールしてから、続々とみんながゴールしていく。
「何位?」

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