何を企んでいるのか全く分からなかった。勝負をするのであれば自分で決めた方が有利のはずなのに。
「ほら、早く。休み時間終わっちゃうよ。」
慌てて周りを見渡す。なんだ?何で勝負すればいいんだ。早くしなければせっかく取り付けた約束が無かった事になってしまう。
「あ、これにしよう。」
目に飛び込んできた掲示板を指さした。そこには『10月21日恒例マラソン大会』と書いたポスターが貼られていた。全校生徒が参加する学校行事だ。
「これで勝負しよう。早くゴールした方が言う事を聞く。」
黙る品川。それもそのはずだ。明らかに自分の方が足が速い。昨年のマラソン大会は自分は400人中50位で品川は250位だった。
「いいよ。それにしよう。」
「え、」
まさかの承諾だった。
「これで勇太君が勝ったら僕は言う事を聞くよ。僕が勝ったら僕の意思は自由でいいよね。」
「あ、ああ。」
「じゃあ決まり。」
品川はそう言って教室へと帰っていった。
「・・・。」
予想外の展開にしばらく廊下の壁に寄りかかった。
放課後に美雪にその事を報告した。
「嘘!?マジで?」
「マジで。」
流石に美雪も驚いた表情をみせた。
「何か企んでんじゃないの?」
「俺もそう思ったんだけど、マラソンの勝負をして品川にメリットがあるとは考えられないんだよね。」
「確かに。」
「だけど本人はやるって言ってるんだから、遠慮なくやらせてもらう。」
「もしかしてメチャクチャ早くなってんじゃないの?」
「大丈夫。お前も体育の時間見てたら分かるだろ。運動神経は中学から変わっていない。」
「そうだね・・・。」
教室のカレンダーを見る。今日が9月20日。マラソン大会まで一ヶ月。
「勇太、気を抜いたらダメだよ。なにがあるか分かんないんだからね。」
「大丈夫。俺はうさぎにはならない。」
「は?」
「ウサギと亀だよ。あの競争はウサギが気を抜いて寝たから負けたんだろ。俺はそんな失敗はしない。寝ないで全力で走ってぶっちぎりで勝つ。今のうちからマラソンの練習をしておく。」
正直言えば、少しくらい気を抜いても負ける気はしなかったが、念には念を入れた。吉永玲子をこんな所で奪われるわけには行かない。