小説

『ぶっちぎりで勝ちますから、マジで』鷹村仁(『ウサギと亀』)

「だから何を?」
「吉永の好意を受け入れないで欲しいって。」
「・・・馬鹿なの?」
「馬鹿って言うな!それしか思いつかなかったんだよ。」
 目を丸くして『信じられない』と言うような顔で見てくる美雪。自分でもおかしい事を言っていると思う。しかし自分にはこれしか思いつかなかった。
「まだ玲子は告白すらしてないんだよ。」
「してからじゃ遅いんだよ。その前に品川にお願いする。」
「玲子に告白すりゃあいいじゃん。」
「お前こそバカなのか?品川の事を好きなのに告白したってフラれるに決まってんだろ。」
「じゃあ、品川君が『分かった』って言ったら玲子はあんたの告白は受け入れるの?」
「確率は上がる。」
「アホくさ、好きにしたら。」
 美雪はため息をつきながらどこかに行ってしまった。確実に馬鹿にしている。しかし気にしている場合ではない。一刻も早くこの地獄の妄想から抜けださなくてはいけない。

「品川、ちょっといいか。」
 昼休み、勉強中の品川は顔を上げこちらを見てくる。話すのは久しぶりだった。
「どうしたの?」
「ちょっとお願いがあるんだけどいいか。」
「いいけど・・・どんなお願い?」
 品川は持っていたシャーペンを机に置く。
「ちょっと教室じゃ言いづらいんだ。廊下に来てもらえるか。」
 品川は不思議そうな顔をしていたが、廊下まで出てきてくれた。そこからこちらのお願いを話した。
「いいよ。」
「え、」
 拍子抜けするくらいあっさり返答してくれた。
「本当か?」
「うん。だって僕はあんまり吉永さんの事知らないし、告白されても付き合うとかそんな事は考えてないよ。」
「そっか、そうだよな。ありがとう。」
「・・・でもちょっと待って。何かで勝負しない?」
「勝負?」
 品川が冷静な顔で言ってくるのに対して、かなり身構えてしまった。
「そう。僕だけお願いを聞くのはフェアじゃないからさ、何かで勝負したいんだ。」
「いいけど、あんまりむちゃくちゃなのはやめてくれよ。」
「勇太君が決めてくれよ。なんでもいいよ。」

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