金井にしこたま借金してるふたりは、昔から追われてる。それでもここ1か月ぐらいは逃げおおせていた。
ついにその時が来たのかと思う。
「行くでぇ」
花火客の合間を縫って縫ってふたりは走り抜ける。
三一子も真剣な眼差しで走る。頭上には、もうそれはふたりだけのジングルかいって言うほどの大音量の花火がさんざめく。
アーケードを飛ぶように縫い、景色を染めるように走っていたとき三一子が持っていた檸檬のしゃりしゃりの袋が破けて、辺りに転がった。いくつもいくつも。
途切れない観光客の足元に転がる檸檬。
ふいに気づいたのだけれど、そのせつなカジモトは胸のあたりから檸檬の匂いを今までにないぐらい放っていた。
「カジちゃん。今年いちばんの匂いだよ」
切羽詰まりながら息を切らしながらも、うれしい三一子はやっぱりくれーじぃだ。
金井もあきらめずに向かいの通りを走っていた。ちょっと眼差しと口元に笑みを湛えながら。
その時、カジモトは何を思ったか口ずさんでいた。
<ドゥアディアーフィーメルディア、レイアドロップオブゴールデンサン!>
こんな時になんでやねんって思いながら、レは檸檬のレやろうって、あの頃の焦燥感に比例するように、心臓からの檸檬の香りが、花火の夜の町のすべてを覆いつくしていた。