腕をつかまれて、引き上げられる。おかしい。ステイタスを確認する。パワードスーツの出力は300、内部への負荷が約200。重力でいうなら大体6倍くらいの圧がこの空間にはかかっているはずだ。なのに平然と立っていて、僕を腕一本で引き上げるなんて。パワードスーツの重さだけでも僕の倍、ゆうに20ｋｇはあるっていうのに。
「ここは地球という惑星だ。君はあそこから来たのだ。我々が理想郷としてテストしているあの衛星から」
みれば遠くに、だけどひときわ大きく、金色に光る星がみえる。
「君は我々の仲間の後をおってきたというわけだ。トラブルがあって、念のために備えておいたエネルギーコアと射出プログラム用の端末をコロニーフロートに使ったが、その後に続いてね」
手を離されて膝をつく。鈍い痛みが走った。この重力、並大抵のものではない。
「概ね生活は順調そうだね。でもまだここに来るの早すぎたな。しかしそのパワードスーツとやらはいいね。改良すれば計画より早い段階で、こちらでの活動が可能になるかもしれない。わざわざ調べに行ったかいがある」
「け……計画？」
スーツの関節がぎしぎしと悲鳴を上げていた。
「そう。オートメーションにより月で人間を育成し、地球環境を回復する際の人的資源にする通称『カグヤ計画』。地球人をサンプルには使えないが、君たちは月で自動制御管制システム『オルテーススバイオテクノロジー』によって生まれた地球外培養生命体だ。正直、ここまでの行動力を示すとは思わなかったよ。君は記念すべき地球への検査体一号さ。そのパワードスーツを外すとどうなるんだろうね。さあテストを始めよう……」
金色の星に向かってハンドガンの銃口を向けた。ノズルフラシュを3回。閃光は瞬間、男たちをひるませたが、それ以上の効果を生まなかった。僕は床に倒れた。
遠い故郷が残光の中できらめいた。長く美しい髪が、月のどこかで揺れている。