河童が鉄格子の間から胡瓜を一本差し出した。
僕が胡瓜を受け取ると、河童は一瞬、顔を歪め足早に立ち去った。
青々とした胡瓜は見るからに新鮮そうで、ガリッと胡瓜を噛むとみずみずしくてお日様のにおいがした。そういえば朝から何も食べてない。僕は黙々と胡瓜を頬張った。
痛い……。咽が焼けるように痛い。
僕の手から胡瓜が落ちた。
体がガクガク震えて壁も天井も歪んで見える。
体が散り散りに砕けていくみたいだ。
僕は壁に爪を立てながら倒れた。
口から血を流して少年が死んでいた。
それは僕。
13歳の僕の姿だった。
その手には鏡が握られ、鏡には河童が映っていた。
蝶の言うように僕が人間か河童なのかは問題ではなかった。
僕は人間でも河童でもない。
僕は口から血を流して倒れている僕の肉体を見つめている僕なのだから。
僕はまわり巡る。
僕は永遠に存在する。
白い花のように。