「いいえ、あれは天使よ」と妻はいった。「あれは天使たちによる集団的投身自殺よ」といって彼女はふかくため息をついた。「なにも、死ぬことなんてないのにね」
ぼくは妻をぶん殴った。バキッ。ロマンチックが鼻についたからだ。
妻は頬をおさえて、キッとぼくをにらみつけた。
「わたしたちもうおしまいね」と彼女はいった。「あなたのことは好きだけど、こうも毎日毎日毎日毎日バチボコバチボコバチボコバチボコぶん殴られたんじゃあ、やってられまへんわ。ほんまに」
ぼくは妻をぶん殴った。バキッ。言葉のみだれが許せなかったのだ。
「うへえええええええたあああすけてくれえええええええええええ」といって妻は家を飛びだして逃げていった。
ぼくは追いかけなかった。来るもの拒まず去るもの追わずがMYモットーなのだ。
「グッバイ」そうつぶやいてぼくは、空をみあげた。
空からは雪。白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白。
はは、大雪だ。
数日後、妻は帰ってきた。
それからしばらくたって、「ねえ、君はぼくといて幸せかい?」と、ある夜ぼくは妻にきいてみた。「ぼくってほら、乱暴者だろう? もしかしたら君は、ぼくと離れて暮らしたほうが幸せなんとちゃいますか?」
「いやもしかしたらもなにも……」と妻はいった。「そらあ、そうだろ。お前さんなんかとこれ以上一緒におったら、うち死んでまうわ」
別れが近い。とぼくは思った。
「そうか」といってぼくは妻の間抜けな横面を光速の右フックで打ち抜いた。パチコーン!
そして別れの時はやってきた。
離婚したわけじゃない。
死別だった。
ある日、とつぜん空の彼方からミサイルが飛んできて夕飯の買い物帰りだった妻のうえに落っこちたのだ。
核ミサイルだった。