小説

『マルガレータ』次祥子(『白雪姫』)

 今まで見たこともない物が掛かっていた。一枚のボロボロの絵である。人物画のようであるが、カンバスは裂けて誰が描かれているのかも分からない。手で擦ってみたが、刃物で切られたように破損が激しくてどうにもならない。いったい、誰の何の絵なのだろうと思案していると、それは亡くなった后のポートレートであると、いつか手紙を持参した侍女が教えてくれた。この部屋には初めから鏡など無かったのだ。
 部屋の隅には役目を果たしてか、干からびた一粒のツノハシバミの実が転がっていた。

1 2 3 4 5 6