ツイート 今まで見たこともない物が掛かっていた。一枚のボロボロの絵である。人物画のようであるが、カンバスは裂けて誰が描かれているのかも分からない。手で擦ってみたが、刃物で切られたように破損が激しくてどうにもならない。いったい、誰の何の絵なのだろうと思案していると、それは亡くなった后のポートレートであると、いつか手紙を持参した侍女が教えてくれた。この部屋には初めから鏡など無かったのだ。 部屋の隅には役目を果たしてか、干からびた一粒のツノハシバミの実が転がっていた。 6/6 前のページ 3月期優秀作品一覧 HOME 1 2 3 4 5 6