小説

『ツルと持参金』永佑輔(『持参金』『鶴の恩返し』)

 吉浜は見ていられず窓とカーテンを閉め、悲鳴を聞いていられずラジオのボリュームを上げた。
 ぱっかん、と卵の殻が割れる。
 中身は空っぽだった。
「これはハズレっすね」
「卵も同棲相手もハズレだったな」
 坂東と林は鼻で笑い飛ばす。
 タンチョウのもがき苦しむ声が吉浜の耳を突く。
「や、俺がハズレだったのかも知れない」
 吉浜のつぶやきはラジオの笑いにかき消されるほどか細かった。

 猛暑日はしばらく続くというニュースが流れた日の夕方、吉浜は坂東に声をかけた。
「動物園に行きませんか? 確かめたいことがあるんです」
「子供たちの相手で手いっぱいなんだ、他をあたってくれ」
 林を誘った。
「動物園に行こうぜ。確かめたいことがあるんだわ」
「俺も確かめたいことがあんだよ。あの金は一体どこから発生するんだ? あ、動物園には行かないぞ」
「どうして?」
「俺は競馬より競輪。人間以外の生き物に興味ないんだよ」

 動物園は吉浜一人しかいないのではないかと疑うほど空いており、スムーズにタンチョウコーナーにたどり着くことができた。
 柵の向こうに数羽のタンチョウがいる。
 園職員に声をかける。
「逃げていたのはどのタンチョウですか? 鳴き声を聞きたいんです」
「申し訳ございません」
「はい?」
「残念ですが、あのタンチョウは先ほど死んでしまいました」
 とたんに吉浜は汗でベトつくシャツが気にならなくなった。そして気分が悪くなって座り込み、とうとう担架で運ばれてゆく。

 タンチョウたちは異物を見るような目で柵の向こうの吉浜を眺め、一斉に鳴き声を上げる。
「げーげっげーげー!」

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