「解っているさ。本当は解っているんだ。愚か者で、けれど寂しがり屋でどうしようもない。だから永遠にここにいる」
「ここにいることを選んだから、ここに来たんだ」
三月兎が怒鳴ります。帽子屋は諦めます。ヤマネは相変わらず、ティーポットから出てくる様子もありません。アリスは、誰からも返事がない事に、少し腹を立て、さっきよりも強い口調で言いました。
「何言ってるの?また訳の分からない事ばかり言って――」
「牡蠣料理はもう沢山!だけど食べればここを思い出す」
「あんな顔、見たくもない。どいつもこいつも同じ顔」
「逃げてばかりの分からず屋。これが最後のチャンスだったかもしれないのに」
「ねぇ返事くらい…キャァッ!」
アリスが文句を言おうと、帽子屋達の方へ一歩踏み出すと、突然頭から何かの布をかぶせられて、目の前が真っ暗になりました。
「いきなり何するのよ!?誰!?」
暴れていると、どうやら身体に何かごわごわとした布を掛けられた事に気付きました。アリスは、きっとテーブルクロスを被せられたのだと思いました。
「ねぇちょっと!聞いているの!?これは人にかぶせるものじゃないわ!」
そう怒鳴ったところで、布の向こうから人の声がしました。
「さぁ急いで!早くしないと!」
「大丈夫かい?ここがどこか解るかな?」
どうも、アリスの声は聞こえていないようです。そこでアリスは、やっとの思いで顔にかかっている布を外しました。
眩しい光の中で、アリスは自分の顔を覗き込んでいる二つの陰に気付きます。
それは、ハートの女王の所にいた兵隊達でした。
「貴方達は…女王の兵隊ね?スペードの2と5…ってことは、薔薇に色を塗っていたトランプじゃない。数字、覚えててよかった」
「トランプ?トランプがなんだって?」
一人がそう言うと、もう一人が優しく笑います。
「薔薇の花なら、後で見に行こう。今年も真っ白な薔薇が綺麗に咲いたから」
「まぁまた白くしてしまったの?大丈夫?女王様に叱られるわよ?」
「大丈夫だから、君は心配しないで。しっかりね」
何をしっかりするのかなと思いましたが、この世界の人達はみんなどこかおかしいのを思いだし、アリスは気にしない事にしました。
「けど安心なさい。首を刎ねられそうになったら、私が文句言ってやるわ」