見れば、確かにアリスが歩いていたのは、右の道になっていました。
「おかしいわね。確かに真ん中の道を歩いてきたはずなのに。…変なの。やっぱりこの世界って、とってもおかしいんだわ。……ん?」
アリスが首を傾げていると、いくつかの大きな声が聞こえてきました。
気になったアリスは、声の方へと歩きます。
すると、二つの影と、綺麗なテーブルが見えてきました。
一つ目の影は、そっぽを向いて頭を抱えています。
「もういいじゃないか。放っておいてくれよ」
するともう一つの影が、長い耳を立てて怒鳴りました。
「ダメだダメだ。どうして逃げる?いつまでも夢の中なんて馬鹿げてる!」
それは、お茶会の会場でした。俯いている男の頭にはオシャレな帽子。
怒鳴っているのは痩せた兎。帽子屋と、三月兎です。
それからカチャンと音がして、ティーポットの中から眠たげな鼠が顔を出しました。どうやらヤマネは、ティーポットの中に隠れていたようです。
彼らはアリスに気付きもせず、話を続けます。三月兎がまた怒鳴りました。
「いいか?夢ばかりじゃあ駄目なんだ。夢なんてそこにはありやしない。お前、いつまでそうしてるつもりだ?逃げて逃げて、その先に何がある」
「ここはキラキラしてるから。外は真っ暗、何もない」
「おかしなこと。ティーポットの中は真っ暗で、外の方が余程明るいのに」
アリスが首を傾げると、帽子屋が大きく嘆きました。
「もういいじゃないか。無駄なんだよ。そいつは一生そこにいる。誰が呼ぼうが誰が死のうがおかまいなしさ。身勝手で我儘で独りよがりな奴なんだ」
「それじゃダメだろう!それで一体、この先どうする?こいつのせいで、みんな何も出来ない。哀しいし面倒臭いし困るじゃないか!」
「そうね。ティーポットが使えないと、困るかも」
三月兎の主張に、アリスも頷きました。
「もうそんな奴はいないさ。みんなすっかり忘れてる。だからお茶会をすればいい。一人ぼっちで」
「…何を言っているの?貴方達、いつも三人でいるじゃない。一人ぼっちなんかじゃないわ」
落ち込む帽子屋を励まそうとそう言うと、ポットの中からヤマネが呟きます。
「何もいらない。ここだけでいい。外は沢山あるのに何もない。誰も構うな放っといてくれ」
「ねぇいいんじゃない?ヤマネは構って欲しくないみたい。少し放っておいてあげれば?」
「もう誰も、構おうともしないで諦め始めてるのにまだ気づいてないのか。馬鹿な奴。本当は、全部見えてる癖に、見ようともしない。夢ばっかり追って、籠っている。愚か者だ!」