「あー確かに、何か特別な事情があったのかも、今日は真が悪そうだからやめとくか、って思うかも」
「それです、それです!」
なあんだ。さゆりちゃんのお陰でつかえていた気持ちがスッと楽になった。
「で、いつ私のことかわいくしてくれるんすか?」
「かわいくっていうかゾンビメイクでしょ」
「ゾンビメイクはかわいいっすよ。だって『何それ笑』ってツッこむスキができるっしょ。それがかわいいです。もちろんガチだったら怖いけど」
そう言われて私が真っ先に思い浮かべたのは岡本さんだった。グリムランドで谷崎君をナンパしようと必死だった岡本さんは、「何それ笑」とツッこめるかいさがあった。対して私は……。
「今日の私はガチで怖かったよね」
「まあ正直怖かったすね笑。でもあれも、ごめ~~~~ん、さゆりちゃん、片づけて~~~~って言ったら、かわいかったっす」
「そうか………………」
「ね、むーちゅうアカウントももっとかわいくしないすか? 私、個人アカウントじゃなくてメディアアカウントか何かと思ってたんすよ。むーちゅうは完璧すぎて、今日みたいな個人的なツイート滅多にしないでしょ。中の人感もっと出した方がいいっすよ」
「ええでも身バレしたくないし、若い女だと思われると色々面倒そうだし、ナメられたくないし」
「ナメられていっすよ、そこがかわいさっす。そこはオッサンだろうが女の子だろうが関係ない」
私の手にかかったさゆりちゃんはとっても「かわいく」なった。渋谷の街で一体何人に声をかけられるだろう?
「さ、むーちゅうアカウントかわいい化計画第一弾す。今からハチ公前に行ってゾンビメイク屋さんしますってツイートしてください」
「えッムリ!」
「私をかわいくしたよこさんはマジかわいいす。その調子でみんなをかわいくしてきてください。大丈夫よこさんの腕前すごいから。てかさっき言ってたじゃないすか、お姫様になりたかったって」
確かに言った。お姫様になるには、自分から動かなきゃって言った。
「むーちゅうが動いたらフォロワー多いんだから一瞬すよ。王子様に選ばれるんじゃなくて、ガン選ぶ方になってください。かわいいって思われたいんでしょ? かわいいって思われたいよこさんかわいいっす。恥ずかしかったらほら、自分で自分にゾンビメイクすればいいじゃない」
「ゾンビ顔のザンスってカオスじゃない?」
「超かわいいっすよツッこみどころ満載で。大丈夫今日の渋谷はお祭りだから」
「そっか、やれるかな」
「みんなをビビデバビデブーしてください!」
私はお姫様じゃなく、灰かぶりでもなく、継姉でもなく、ビビデバビデブーのポジションにだってなれるのかもしれない。