小説

『拡散する希望』渋澤怜(『灰かぶり』)

「だって、目立たないじゃん。でもノリで急に来ちゃったからそんな本気のコスプレ用意する時間も根性も無かったけど、うーん、やっぱ、これくらいだと微妙かなーって」
「わかる。そこで逆にあえてドンキの着ぐるみ。超目立つ」
「うん。なんだかんだかわいいし」
「え……マジ……ザンスか……?! そんな、うちのはタダの手抜きだし、そんな」
 なんで私を褒めだした?! なんかあった?! 女子同士の褒め合いだとしてもそんな元から勝負降りてるやつまで褒めなくても。それとも何か、嫌み? とか? 調子乗らせて後で落とすやつ? と穿ってしまう私の性悪さが嫌になる。中学生でライトないじめに遭って以来このクセが抜けない。
「でも、ドンキカルチャーをこのグリムランドに持ち込んだ横田さんのセンスはすごい」
「うん。渋谷あたりだと普通だけどここだとすごく際立つ」
 二人に、目を見て言われてしまった。二人は多分、本当に心根がきれいなんだろうな。ごめん穿って。二人とも付属上がりで、すごく育ちがいいんだろうなという感じがする。都内で遊び慣れてるから、ノリでグリムランドに来れちゃうこのこなれた具合も羨ましい。私もそうなりたい。自分のなにもかもが恥ずかしくなり耳のあたりをわーっとかくと、
「あ」
 ない。
「どうしたの?」
 私は顔の血が一気に引くのを感じた。
「イヤリング、片方ない」
 顔どころか脳も血が引いて全ての思考が一瞬フリーズする。
「ほんとだ!!」
「どこで落としたんだろう?」
「いつまでつけてた?」
「ええと……」
 そんなの分かるわけない、と思う、けど、なんとか思考をひねり出し
「あ、でも、スーパーウルオッシュマウンテンに乗って水浸しになった後確認したら、つけてた、と思う」
「てことはオカシランドとピルグリムゾーンのどっかか」
「結構広いね」
「どうする? キャストに言ってみる?」
「それかSNSで呟いてみようよ。拡散希望って」
「それだ」
 私のかわりに二人がくるくると思考を回転させてくれる。岡本さんが私のイヤリングのついてる方の耳をパシャリと撮影する。思わず「顔は出さないで」と言ってしまう。
「もちろん。イヤリングのアップだけだよ」

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