小説

『赤ずきん』花島裕(『赤ずきん』)

 友人に置いて行かれて居心地の悪さを感じていたみずきにとって、その店で一人ひょうひょうと酒を飲んでいる彼はなんだか同士のように思われた。
 「おひとりなんですか」
 「連れがいなくなってしまって。きみは――未成年じゃないの?」
 「私も。ハハ、学生証でも見せましょうか」
 「ああ」
 みずきは面食らいながら小さなカバンをゴソゴソやった。こんなこと気にする人がいるのか。新鮮だった。
 「はい、どうぞ」
 吸血鬼は学生証のふてくされた写真と目の前の赤髪ナースを見比べ、目を細めた。
 「失礼した。一杯おごるよ」
 「ありがとう」
 モスコミュールは名前が好きだ。もしかすると味よりも。
 「乾杯」
 「乾杯。ハッピーハロウィン」
 この日にしか使えない間抜けな挨拶を口にしてみる。カチリ、とグラスが重なる。
 今日この人と寝るかもしれない。
 ミニスカートの下で考える。

 ゼミで同じの高城くんにたった3か月で「よくわからない」と見切りをつけられ、逃げられた。裸まで見ておいて一体みずきの何がわからなかったのか。何がわかると期待していたのか。新しい彼女の何が「わかった」のか。みずきにはわからなかった。
 目立つ女の子たちと遊ぶのが好き。
 素朴な男の子たちと議論するのも好き。
 猫が好き。
 クリオネが好き。
 パセリが好き。
 生ハムが好き。
 ヒールの靴が好き。
 履き古したスニーカーも好き。
 全部が全部みずきの一部で、全部を全部足してもみずきにはならない。
 「目立つ髪だね」
 「作りモノですけど」
 「僕のこれも」
 キバを指さしニヤリと笑う。普段と違う姿で、普段と違う人と、秘密を共有するような甘やかな雰囲気が十月三十一日(このひ)にはある。
 「でも普通に会ってもきみだとわからないだろうな」
 「さっき写真を見せたのに?」
 「赤い色がよく似合うから」
 ずっと二人で。なんとなくいい感じで。お酒も入ってて。
 何かあるだろうなって、思うじゃない?

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