つまずきは瞬く間に大きく膨らんでしまいそれまであんな状態を何度もリカバリして乗り越えて来たはずなのにあの頃はそれが何故か上手くゆかずにもがいたて気持ちを上手く切り替えられないまま応援で行かされた救急外来で危うく致命的なミスをしかけた。
徐々になんとなく病棟では持て余さていると感じ始めた。
主任の肩書きを持ったお荷物。
今更オペ室に戻る気持ちにはなれなかった。
だから、看護師を辞めた。
列車の車内灯が灯された。
車内にはいつしかたくさんの乗客がいた。
「この人たちはどこまで行くのかしら」
「連絡船に乗るんだよ」
「稚内から?」
「そう。稚泊連絡船にね」
「ちはくれんらくせん?」
鈴ちゃんは静かに微笑んで頷いた。
「そういえば、ここはどの辺りだろう」
「もうじき第10頓別川橋梁だよ」
「鈴ちゃんは何処で降りるの?」
「私は連絡船に乗るの。この人たちと」
そしてようやくづいた。鈴ちゃんの下半身が血だらけな事に。
「次の駅はあなたの降りる駅よ」
「私だけ?鈴ちゃんと一緒じゃないの?」
列車のアナウンスが「次は飛行場前駅です」と告げている。
鈴ちゃんは胸のポケットからごそごそと紙片を取り出して私に差し向ける。
私は訝る。
「切符だよ。あなたが乗るべき飛行機の。あなたのこれからは、決して平坦な道程ではないと思う。でも戦って」
「鈴ちゃんは?一緒に来てくれないの」
鈴ちゃんはゆっくりと目を閉じた。
「私は、一緒には、行けない」
「嫌だ」
「ねえ鈴ちゃん」
「もう一人は嫌だ」
鈴ちゃんはキッと目を開いた。