ゴトゴトゴトゴトゴト。
二人を乗せた列車は鉄橋を渡っている様だ。
「此処は何処なの?鈴ちゃん」
「ここは天北線だよ。ちょうど今、第一音威子府橋梁の上を走ってる」
私は“そうなんだ”とゆっくりと頷いた。
天北線は遥か昔に廃線になっていたけど。
そして今この時、私は鈴ちゃんと天北線だという列車の座席に座って車窓から流れゆく景色に目を奪われている。
「憶えてる?天北線からだと車窓から私たちの家が見えるんだよ」
鈴ちゃんはとても嬉しそうに言った。
「そうだ。おめでとう」
私は首を傾げる。
「あなたは勝ったね」
そう言われて私は胸が熱くなる。
「アイツに勝っね」
「何のこと」
「勝ったじゃない。恐怖の大魔王に」
「ああ、そのことか」
それは、あの日、鈴ちゃんと交わした二つの誓いのひとつだった。
あれはまだ私が小学生3年か4年生の頃だっけど男子の誰だかが兄ちゃんだか姉ちゃんだかの本を学校に持って来た。
ある男子がよく“すごいヤツ持って来た”と言いながらの兄ちゃんのビニ本を持って来ては男子限定で騒ごうとしたけどそういうノリの本では無かったみたいで男子どもはビニ本を見てはしゃいだ後とは少し違って何故か困った様な表情で薄笑いを浮かべていて“なんやあほ臭い”となぜか大阪弁で軽くかわそうとした生まれてこのかた道内から一歩も出たことの無い同級生も実は少なからず皆と同様にショックを受けているのが分かった。
男子の数名が回し読みを終えたその本は女子のグループに渡り私も読んだ。
その本にはおおよそ十年後に恐怖の大魔王のせいでセカイはオワルと書かれていた。
家に戻ってからその本の事を話したくて鈴ちゃんの家に行き宿題をしていた鈴ちゃんに話したらコクっと頷いて「私も読んだ」と言った。
「19歳まで生きれるならそれなりに悪くはないかもね。ケ・セラ・セラだよ人生なんて」
大した考えも無しにそんな事を言った後に気づいたら鈴ちゃんの目はまるで戦いに臨むアニメの戦隊戦士の目の様に熱く燃えていたけど何故か一言も言わず押し黙ったままなので私はそろそろ夕飯の時間だなと独り言ちて家に帰ろうとして座布団から立ち上がって襖に向かったけどついに部屋を出てゆく最後までいつも背中に投げてくれる「またね」の言葉は無かった。
あくる日の真夜中。夜の電波の良いのを利用して東京の放送局から流れてくる中島みゆきさんの「オールナイトニッポン」を必死にダイヤルチューニングしながら聞いていたら二階の私の部屋の窓に小石をぶつける奴がいて恐る恐る窓の外を見たらそこにはまだ戦隊戦士のままのコワイ目をした鈴ちゃんが仁王立ちで立っていた。