小説

『20年目の暴走』佐藤邦彦【「20」にまつわる物語】(『美女と野獣』)

 可憐さを放棄し地を出せる様になったミルマが生き生きと話す。
 「しかもこうすれば、このつまらない物語が美女と野獣という名作より高次な存在になるんだから凄いでしょ?」
 「はあ……。で、私はどうなりますので?」
 ラスンが訊く。
 「そうね。あなたは伝説の勇者として城で暮らせばいいわ」
 「しかし、それですと来年より物語をどう盛り上げれば……。新しい敵となるとなかなか人材が……この世界観でのドラマツルギーとしまして……」
 ラスンが心配する。
 「そんな心配はいらないわ。物語はここで完結し、それでもこの国、いいえ、この世界は存続するのだから。あなたはそんな心配より鼻をかみなさい。鼻水が垂れてるわよ。汚いわね」
 「いや、物語が完結すると国の存続が……」
 とボブバ。
 「大丈夫!私に考えがあるから」
 と言うとミルマが指をパチンと鳴らし、装飾や誇張なしに、実際おおきな大きな声で
 「エンドローーーールッ!」
 と高らかに告げると、三人の眼前に出演者等の名前がエンドロールとして降ってきて、その背後には、いつの間にか、王、臣下、蝦蟇、幻竜、鬼魚の他ゴーレム、ゴブリン、ベムと名前しか登場しなかった者まで現れ、ミルマにラスン、ボブバと楽しそうに歓談している様子。それがフェードアウトし、ミルマとボブバの結婚式の様子がフェードイン。それも短い時間でフェードアウトし、今度はボブバの戴冠式の様子がフェードイン。これもフェードアウトし、幸せそうな皆の日常がフェードイン。これらすべてがサイレントで演じられ、BGMには楽しそうなクラシック音楽。やがて、ゆっくりと世界が暗転し中心に大きく浮かび上がる『完』の文字。
 暫くすると、暗い世界の右下が捲れ上がり、そこから顔だけを出したミルマが、
 「こうして、皆末永く幸せに暮らしました。ドゥー・ユー・アンダスタン!?」
 と満面の笑顔で『この世界』の存続を宣言すると顔を引っ込め、再び世界は闇と『完』の文字だけとなる。

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