ボブバのちょろちょろとした火を見たラスンが暗澹たる気持ちになる。(後継者の出来ぬまま過ぎ去った20年……。普通であれば、まだまだ壮年と言える。しかし……。勇者に魔王としては互いに老いさらばえた。……だが、それよりも哀れなのは……)ラスンが化粧では小皺を隠し切れぬミルマを見やる。
(姉の跡を継ぎ、16歳で姫となって20年……。一族には未だ私の後に女児が誕生していない。なので、今でも私が姫。36歳の姫!髪に白いものが混じった姫!若し妊娠したら高齢出産となる姫!それが私!当然結婚も出来ない。国の為、民の為、無理して姫の役割をこなしてはいるけど……。私にはわかる。皆が年増姫と私を嘲っているのが!!)
ボブバの火の衰えが自身に重なり、ミルマの不満が臨界点へと近付く。
「くっ!何たる炎!このままでは……」
ラスンが顔を醜くならぬ様注意しつつ端正に歪める。
「フハハハハ!ラスンよ、焼け死ぬがよい!」
この後逆転負けを喫した際に観ている者のカタルシスが増す様、悪辣な表情と声を心掛けてボブバが台詞を発する。
「やめて!下らない茶番は!」
ついに我慢が臨界点を超えたミルマ姫が急に叫び、ラスンとボブバが慌てる。ラスンが何とか誤魔化そうと機転を利かせて、
「姫!どうなされました!?さては、ボブバ!貴様、姫に妖(あやかし)の術を用いおったな!」
ボブバも呼応し、
「フハハハハ。もはや姫は我が術中にあり!」
「やめて!姫、姫言わないで!もうやめて!こんな茶番。あなたたちがやめなくっても私はやめます!ええ、やめますとも!何が姫なもんですか!冗談じゃない!私は36よ。アラフォーなのよ!顔のシミに悩んでいるのよ!姫の母親ならともかく、姫なんかやってられますかっての!冗談じゃない!あなた達もあなた達よ。何が勇者よ、メタボのくせに!何が魔王よ50肩のくせに!キィーッ!」
腕をぶんぶん振り廻してヒステリックに叫び続けるミルマ姫にラスンとボブバがおろおろし、
「しかし、姫。姫がやめては国が……」
と、ラスン。
「姫。今しばらくの御辛抱を!」
と、ボブバ。
「いいえ!もう辛抱できません!このままだと40になっても60になっても、いえいえ80になっても純情可憐な姫をやらなくっちゃいけなくなりそうだもの。もう無理!もう限界!もうやめました!今やめました!はい終了」
「そんな!姫、この国には産業も資源もないのです。この1年に一度の物語によってこの国や民は支えられているのです!」
ラスンが訴え、
「そうです!姫。この物語があるからこそ、この国は存在出来ているのです。物語をやめたら国が消滅するかもしれないのです!どうかお考え直し下さい。お願い致します!どうか、どうか!」