「申し訳ございませんでした!」無事に終了したものの、営業成績は上がらず、サボりが改善されるどころか……遊助が老師の姿を探すと、彼はソファーに寝転がって楽しそうにゴロゴロしていた。間違いなく解雇になる、それは回避せねばと遊助はひどく焦った。
「つまり、あのですね…なぜ効果が出てないかと言いますと…」
「今、老師はどんな様子なんだ?」
「それがその…」
我関せずといった様子で老師は大きく口を開いてあくびをする。真面目な老師は1日でサボりの何たるかを学習して、確実に実践できるようになっていた。どうせ隠しきれぬと思い、遊助は正直に話すことにした。
「完全にサボっております。本当にすみませんでした!あの、よろしければ再度頑張りますので、クビだけは…」
「遊助くん」
「は、はい!」
戸田からの鋭い視線に、遊助は終わったなと思った。こんな俺がどうやって職を探せば良いのだと絶望的な気持ちになりかけた時、戸田がニヤニヤと笑みを浮かべて語り出した。
「バーチャルトレーナーには欠点がある」
「欠点?」
「使用者を頑張らせすぎるあまり、20日間を越えた頃から過大なストレスを与えて、メンタルをぼろぼろにしてしまうんだ」
「や、やはり負担がかかるんじゃないですか!まさか、使えない私を殺そうと!?」
「違う、君に期待をして頼んだのだ」
「へ…?」
「君のサボり癖ならきっとAIすらも巻き込むだろうと思ってね」
とてもよくできましたといった様子で戸田が説明を始める。人間が成果を出すためには適度なサボりは重要だ。プログラムすることでAIは人間の肉体的な疲労を察知し、休憩を取ることはできる。だが、精神的なものでもある人間のサボりたい気持ちは中々学習させることが難しかった。だったら、実際にサボる姿を間近で体験させることで理解させることができると考えたらしい。
「安藤くん。君のおかげでより人に寄り添ったサービスの提供が可能になるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「君には引き続き、テストを続けてもらう。仕事しすぎも問題だが、サボりすぎも問題だからな。バランスが大事だ」
「はい!お任せください!」
遊助が老師のほうをみると、なんだか嬉しそうに微笑んでいた。
その後、遊助と老師のテストは続き、そこから得られたデータを活かして、バーチャルトレーナーは完成した。サボりを改善する劇的な商品ということで爆発的なヒットとなり、注文が殺到。これでサボりに悩む多くの人々が幸せになるかと思いきや、やってきたのはクレームの嵐だった。
サボりの魅力に気づいたAIたちは働くのがバカらしくなったらしい。
どのような存在にとってもサボりとは恐ろしい悪魔であったのだった。