「どうした?いきなり何を休んでおる」
「俺は……サボります!」
「たわけが!まだ結果を出しておらんのだぞ!」
「これ以上頑張って働いたら俺がもちません」
「お主のは頑張りとは言わん!能力のない人間は努力をせねばならないのだ!」
老師は怒り狂ったように杖を振り下ろしてくる。ぼすっぼすっと何度も遊助の身体に打ち込まれ、その痛みに耐える度にぐっ!とくぐもった声を漏らす。
だが、それでも遊助は頑として折れなかった。老師の意思に従えば、それはそれで楽なことだろう。しかし、それは本当に自分の意思なのか?ただやらされているだけでは、真の努力とは言えないはずだ。
痛みは次第に頭にも広がり、鼻から血が流れ始めていたが、それでも遊助は耐えた。確かに努力は素晴らしいし、無能なおっさんだって頑張り次第で生まれ変われるのかもしれない……。
「けど、そんなのは俺の人生じゃない!」
「なにを…?」
「ダメな人間にもね、ダメなりのプライドってもんがあんですよ」
自分でもどうしてこんなに熱くなるかはわからなかったが、今ここで負けてしまったらサボる努力を続けてきたこれまでの自分を否定するようで苦痛だった。
「そこまでしてサボりたいのか…」
蔑むような悲哀の眼差しで老師は遊助を見つめる。痛みによる荒い呼吸を繰り返し、鼻血を手でぬぐいなら遊助は老師を睨み返す。
バチバチと視線による戦いが続くかと思われたが、しばしの沈黙の後、老師が諦めたように杖をゆっくりと下ろした。
「……遊助よ」
「なんですか?」
「わしは、これまでサボることは悪だと教えられてきた。だが、お主の姿を見て本当にそうなのかと疑問が湧いてきている」
頑固に見えるけど、老師にも柔軟な面があるのだなと遊助は軽く驚く。
「遊助、わしにサボりとはなんたるかを教えてくれぬか?」
「え?教えてどうするんですか?」
「サボる人間の心を理解できれば、もっと人々の力になれると思うての」
老師の真剣な眼差しに、遊助の体をぞくぞくとした快感が走る。こんな風に誰かに必要とされる感覚はこれまでなかった。サボりを教えるのはお手のものだ。それに今まで頑張ってきたのだから1日ぐらいサボっても良いはずだ。
「わかりました。俺なんかでよければいくらでも!」
「うむ!頼んだぞ!」
テスト期間が終了し、遊助は夕焼けが眩しい部長室へと入った。戸田に報告書を提出しながら頭を下げた。