彼らの目の前で出入り口の自動ドアが開いた。風が吹き込み、コンビニエンスストアに入ってきた女性のスカートが大きく揺れるのを、川村千寿は目で追った。
そして二人がコンビニエンスストアを出るとき、川村千寿の体を駆け抜けた風は小沢から借りたジャケットを揺らした。もう雨は上がっていた。
「こういうアクシンデントが、川村さんが昨日言ってた姓名判断につながるんスか?」
昨日に聞いたばかりの話だとちょうどよいと思った小沢は、軽く声を掛けた。
「……――」
しかし反応が返ってこない。
「川村さん?」
ふいに黙ってしまった川村千寿に小沢は慌てた。
歩みを止めないものの茫然としているように見える。
「あの…」
堪らずもう一度話しかけようと口を開いた小沢だったが、彼が二の句を継ぐより先に、川村千寿が口を開いた。
「スカート!」
今、彼女の頭の中には、昨日の小沢の言葉がリフレインしていた。
―毎日、悪いことばっかりじゃないんでしょ?―
確かに最悪の事態だった。でも、なるほど、それだけではなかった。
総画数20画の呪縛が薄れているのを感じ、気分が軽くなった。
気にしている自分が馬鹿らしくなってくる。
隣で怪訝な顔している小沢をしっかりと見た。
きっと変な女だと思われているだろうと思う気持ちがあったが、言わずにはいられなかった。
「今日、スカートじゃなくて、良かったぁ」
「……」
今度は小沢が沈黙したがそれは長く続かなかった。
どちらともなく笑い出し、二人ともども大笑いした。
心から楽しそうな二人の笑い声は、まだしばらくオフィス街に跳ねまわるだろう。