「ちょっとずつ」電話の彼女も最後にそう言っていた。目の前の少女が言ったように、この騒動を引き起こした彼らは確かに僕たちなのだ。変わらずにふくらはぎが好きな僕がいて、変わらない強い意志を持つ彼女がいる。
「帰ろうか」と僕が言うと、今度こそ彼女は頷いた。空にはお世辞にも満月とは呼べない、歪な丸さをした月がでかでかと浮かんでいた。ウサギは亀とのレースをとっくに終わらせ、いつの間にか月の住人となっていた。
「僕がふくらはぎを好きなことは秘密で。これからもあまり茶化さないでくれ」
僕がようやくその情けないお願いをしたのは、二人一緒に路地を抜けて大通りに出た時だった。ずっと言おうと思っていたのだけれど、あまりに情けないお願いだし言うのに躊躇っていたのだ。彼女は一瞬なにかに驚いたような顔をしてから、にっこりと笑って言った。
「別にいいと思いますけど。それに、私ふくらはぎには自信があるんです」