小説

『大人になったら終わりだよ』藤野【「20」にまつわる物語】

 小さな声に顔を上げると、ポスターを貼り直そうとしていた女性が私の手の中のストラップを凝視している。
「よかったら、差し上げます」
 彼女はぼんやりとした白い表情のまま何も言わずに受け取った。紙のように白い表情は誰かによく似ていると思ったけど、私は過去をいちいち思い出しているほど暇じゃない。身軽になったことを感謝して、空を見上げて歩き出す。 
 どこまでもどこまでもどこまでどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも続いていく空が私の前に広がっていた。

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