柔らかく微笑んで彼女は答えてくれた。
「あの、映画サークルの方ですよね?この映画明日じゃないと観られないんですか?」
そう言って、彼女がポスターを指さした。映画サークルの上映のお知らせだった。明日は「禁じられた遊び」が上映される予定になっている。彼女が僕を覚えていてくれたことに浮きたち、ポスターをのぞく素振りをしてもう少しだけ彼女に近づいた。
「上映は明日だね。明日は都合悪いんだ?」
「今日じゃないと」
そう言って黙った彼女の瞳が、初めて会った時のように赤黒く光ったように見えた。その瞳をもう一度のぞき込みたいという抗いがたい欲求がゆらりと体の中から湧いてきた。
「もし見たかったらうちくる?」
「いいんですか!?」
そう飛び上がるように声を弾ませた彼女は、年相応の可愛らしさがあって安心する。それと同時にいきなり部屋に誘った気恥ずかしさがわいてきて、彼女に傘をかかげながら言い訳がましく下心のないことを説明する。
「彼女がこの前置いてったんだよ。部屋で見るんじゃなくて貸してあげるよ」
「一人は嫌。一緒に見てください」
彼女はきっぱりと言い切った後、ふわりと表情を緩めた。
「私、明日が20歳の誕生日なんです」
だから誕生日プレゼントをくださいというような気軽さを匂わせたまま、彼女は続けた。
「だから、私、今日死ぬんです」
赤黒く光る彼女の瞳の中に、ぼんやりと白い顔をした見知らぬ男が映ったように見えた。
床に散らかったDVDやCDをなんとか寄せてスペースを空けると、彼女はちょこんと腰を下ろした。興味深げにきょろきょろと周囲に散らばった映画のリーフレットやDVDのパッケージを眺めている。恋人や友人たちが来る時には気にもならなかったようなことが気になって落ち着かない。タバコ臭くないか、貸したタオルに変なものはついてないか。恋人がくれたハート型のキーホルダーをどうやって彼女の目から隠すか。生死の話を聞いたばかりなのに、生活に付随する些細なことだけに目がいく。
「で、別に自殺したいとかではないんだよね?」
熱いコーヒーを彼女に差し出しながら念をおす。受け取ったコーヒーを両手で抱え込むようにしてゆっくりと口にしてから彼女はうなずいた。
「あの人から最後にもらったメモに」
「メモに?」