「君も焼きそばパン?競争率高いなあ。けど、私のほうが焼きそばパンを食べたいって思っているよ、絶対!」
あざといけれど、笑顔を含んだ耳に残るかわいらしい声。サッカー部のその子もまんざらでもないのだろう。
Yの声の方を向けば、限定の焼きそばパンを二つも持ってこちらへ帰ってくる。
「よくあんた2つも買えたね。あの子もそれ目当てで来てたんじゃないの。」
「これ二つともあげるよ、あの子にかわいく言い寄ったらすぐ譲ってくれちゃったよ。別におごられてもって感じはあるけどね。」
譲られた上におごってもらえるなんて、卑怯な女だ。けれど、そんな彼女だからナリト以外のことで嘘をつく気にはなれない。
また授業に戻っても、東京の真ん中のここの教室からは広い校庭は見えないし、カーテンが揺れるような心地いい風は吹かない。先生の話を聞き流しながら、彼の人生をつまらなそうと思うことくらいしかすることを見つけられない私は、今もただ先生の言う言葉の端々に言いがかりをつけて、世の中楽しいことはないかと無責任な思考にのめりこんでゆく。
ふと思いついて、カバンの中で揉まれてクシャっとなったノートの端くれに、今日サッカー部のあの子、カラオケ行くんだって、と書く。それを、席の離れたYまで回してもらう。そうなんだと言うように、きょとんとした表情を作り、机の下で小さくオーケーサインを出した彼女を確認して視線をノートに戻す。Yの気になる人だからとはいえ、やりすぎな気もするが、なんせ私には放課後することがない。他の友達みたいに放課後寄り道をするのは気が向かないし、かといってすぐさま家路につくのも何か違う。恋じゃなくていいから、少しくらい心臓が震えるような機会を日々に組み込みたくて、頭の中の想像が広がるのを感じる。
最後の授業の終わりを知らせるチャイムを聞き終わる前に席を立ち、Yの元へと行く。
「今日サッカー部オフなんだって。で、5時にハチ公前に集まって、スクランブル交差点を渡ったところにサロンパスの大きな看板がついてるビルがあるじゃない?そこの向かいのビルの10階のカラオケに行くらしいの。だからさ、のぞいちゃおうよ」
「えっ?正気?あんたそういうキャラじゃないじゃん、好きな人のことなんでも知りたい、みたいな。どちらかといえば、それは私なのに」
「別に大したあれじゃないけど、今日その子が焼きそばパンをくれたの見て、Yが押せばこれはイケると思ったから。だからとりあえずタイミングを見てようよ」
「タイミング」