見たところ、周囲に風穴はできていない。僕はもう一度風子に逢いたくて、風子の暮らしたマンションを訪ねてみた。
いつもはいるはずのコンシェルジュがいない。がらんとした豪華なエントランスを進むと、僕の背丈の倍くらいの高さがあるエレベーターがあった。
高層階から下りてくるエレベーターを待って、扉が開くと同時に足を踏み入れた僕は、そこにあるはずの床がないことに気がついた。照明も壁も天井もないがらんどうの空間には、宇宙に投げ出されたような浮遊感があった。僕は漆黒の闇の中を、地球の奥底へ向かってどこまでもどこまでも落ちてゆく。
僕は目を閉じる。
風子の歌が聴こえてくるはずだから。