小説

『二十を数えたらね』室市雅則【「20」にまつわる物語】

 足の小指がぴょこんと折れた。
 「やったー!」
 喜びの雄叫びを上げるとコツを掴んだのか「じゅうに、じゅうさん」と数えながら順番に足の指を折った。
 「にじゅう!」
 とうとう二十を数えて風呂を飛び出し、待ち受けていた妻に体を拭かれながらそれを自慢したので、妻も大笑いをした。
 あゝ隔世遺伝。
 こんなことが遺伝するものなのか。
 もっと、もうちょっと私の良いところ。例えば…。悲しいかな、浮かばない。だが、こんな誰にも自慢できないようなことが受け継がれて私は少しだけ嬉しかった。
 風呂を上ろうと立ち上がると扉が開き、孫が立っていた。
 「じいじ。もう一回見て」
 そう言うや、再び一から指を折って数え始め、立ったまま足の指も折って二十まで数え終えた。
 もう一回見せたかったんだな。子供だなと思ったが、孫が意外な一言を放った。
 「にじゅういち」
 「え?」
 私の発想の中には「二十一」はなかった。この小技の妙は指を折ることにあるだろうから、伸ばしては意味がない。しかし、きっと所詮子供の浅知恵だろう。伸ばすに決まっている。まだまだだな。
 そうやって私が平静を保とうとしていると孫は大股を開き、股間を私の前に突き出した。
 もし行動や仕草に効果音が鳴るとしたら『どぉーん!』であったろう。堂々たる態度であった。
 もう一度「にじゅういち」と言った。
 すると、股間にくっ付いている可愛らしいものがぴょこりと動いた。
 私は二十で満足をし、二十一を想像だにしなかったが、孫はそれを軽々と飛び越えた瞬間であった。
 「じいじ、できる?」
 そう言った孫の顔は幼児とは思えぬほど誇らしげだった。
これは進化か、退化か。
 きっと彼には彼の人生が待ち受けている。

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