小説

『二十を数えたらね』室市雅則【「20」にまつわる物語】

こうやって成長していくのだなと自分に言い聞かせるが残念だった。
それからしばらく風呂に入るたび、一人で足の指を折って、楽しかったあの頃の思い出に浸っていた。そして、面倒になったのかいつからかぱたりとやめてしまった。
 そんな風にして時間はあっという間に経ち、娘は大学を出て、就職をしたと思ったら、嫁に行った。
 嬉しいけど寂しくて、寂しいけど嬉しかった。
 それからまたしばらくすると孫が生まれた。男の子だ。
 彼は娘に似たのか、お湯に入れてやるのを非常に嫌がった。孫と一緒に風呂に入ることが小さな夢だったので、どうなるのか不安だった。
 悪い予感は的中した。孫は風呂に入るのを嫌がった。たまに遊びにやって来るとせっかくだからと一緒に風呂に入るのだが、烏の行水再びである。
何十年前を思い出し、娘の時と同じように「十を数えたらね」をやろうと思ったが、次に一緒に入れるのはいつのことか分からないので、思い切って「二十を数えたらね」と伝えた。
 孫が渋々ながらも頷いたので、一緒にまずは手の指を折って十を数えると、いつかと同じように足を浴槽の縁に置いた。
 すると孫はあの時の娘と同じように迷惑そうな顔をした。そっくりだなと思った。
 だが、それに怯むじいじではない。孫に足を見ろと告げ「じゅういち」と数えて、右足の小指を追った。
 大笑い。
 男の子だからその笑い方もあの時の娘よりも豪快だった。
 それで妻が飛んで来た。今回はあの時よりも遅かった。まだ五十代とはいえ、あの日から時間は確実に流れ、私たちも歳を重ねた。
 「もしかして、あれ?」
 すでに知っている妻は思い出し笑いを押し殺しながら私に問うた。
 私が頷く前に孫が「じいじ、凄いよ」と大興奮だったので私は満足だった。
 孫は負けじと私の足を退けて自分の足を縁に乗せた。娘の時と同じだ。可愛らしいのだが、そう簡単にはできんよと自負があった。
 「いち、に、さん…」
 孫が手の指を折って数え始めた。そして、「じゅういち」と足に集中をしたのが分かった。私も孫の足をじっと見つめる。
 「じゅういち」ともう一度呟くように数えた。
 足の指は動かない。
 そう簡単に真似されては困る。私のこめかみを汗が伝った。
 「じゅういち」
 三度目の十一を数えた。

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