小説

『にじゅうの記憶』まつまる【「20」にまつわる物語】

チラシを持ったまま劇場入り口へ急いだ。広く薄暗い部屋の中、真ん中の席を確保して一息つく。荷物を整理しているうちに再び仁藤のことを思い出した。

「今、体育館で映画部が上映してるんだけど、みんな純愛ドラマがやりたいっていうから俺は撮影からあんまり参加しなかったんだ。一応、さっきまで中にはいたけど、暑くて暑くて、気持ち悪くなって出てきた」
その話を聞いて、私も何か買おうとしていたことを思い出した。小銭入れの中を見たら、十円玉はなかったけれど百円玉はいくつもあったのに気づいて、わざわざお守りの中身を使わなくてもよかったのか、と思った。
お茶を買って仁藤の方を見たらベンチに座っていたから、私も隣に座った。そのまましばらく沈黙が続いたけれど、彼は何も言わなかった。私も不思議と気まずくはなかった。お茶を一口飲んでから、
「普段、わりと一人でいる方?」と聞いてみた。
「うん、まあ」と彼は答えた。しかしすぐに言い直して、
「あ、いや、ひとりじゃないか」と私の方を見た。
そしてその日から私は、先生たちに心配されることがなくなった。

 
辺りが暗くなって、スクリーンに映画の予告編が流れ始めた。
そういえば、どうしてあれだけで仁藤とよく話すようになって、一緒に下校するようにもなったのか、私はよくわかっていない。私たちは似た者同士だったのだろうか。仁藤が「一人じゃない」と言ったのは、どういう意味だったのだろう。

そんなことを考えている間に予告編が終わって映画が始まった。仁藤のことは一旦忘れよう。たしか今日観る映画は、母子家庭の少年が引っ越し先の隣に住む悪い老人と出会って、親交を深めていくうちに大人の世界を知り成長していく、というストーリーの洋画だ。

「坊や、金を持ってないか。少しでいいんだ」
主人公の少年が老人と出会ったところで、老人が最初にそう言った。つい頭に仁藤のことがよぎった。
いや画面に集中せねばと意識を切り替えたが、物語の中盤に差し掛かった辺りで私の意識は完全に自分の中へ行ってしまった。主人公の母親が仕事でいない間、少年の世話をすることになった老人は、少年に学校を休ませて遊びに連れて行ってしまうのだ。そのシーンを目にした私は卒業式の前日のことを思い出した。

 
「明日、映画観に行こうよ。駅のとこにさ」
学校からの帰り道で仁藤がそう言った。

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