小説

『仏と俺様』美日【「20」にまつわる物語】

 恋人への断りの電話は疲れる。だからといってそれを全て手のひらの中で済ませてしまうのには躊躇がある。
 俺は駅前のいつものコンビニで一番高価な満腹弁当と、どんぶりプリンとかいうどでかいプリンとトクホの黒烏龍茶を買った。いつものコンビニの兄ちゃんはちらりと俺を見たが、いつものカツ丼や百円麦茶と違うからといって別に何か言うわけでもなかった。
 アパートの鍵を開け、別に誰がいるわけではないのになんとなく「ただいま」と声に出して言った。
「おう」
 誰もいない部屋の奥からオッサンの声がした。だが俺は恐怖や緊迫感を感じることはなかった。何故かわからないけれど予感していたからだ。
 電気を付けるとそこには俺の父親と、見知らぬ四十がらみの女性がちんまり座っていた。女の方は予想をしていない珍客だった。
 三十歳の独身男の部屋など、散らかっているに決まっているのだが、そんなゴミ同然のこまごましたものを部屋の片隅にごっそり追いやって、小さなスペースを作り、女性はそこに鎮座していた。父は、俺のスウェットや下着を座布団がわりと言わんばかりにきっちりと折りたたんだ上にあぐらをかいていた。
 俺は、テーブルの上にコンビニの袋を置き、スーツを脱いでハンガーにかけた。だがスウェットは父の尻の下だ。俺は下着がわりのTシャツとボクサーパンツという、他人の前ではあり得ない姿で弁当を食べることにした。
「翔太。久しぶり。元気そう……でもねえな。疲れてるのか」
 父の問いかけに俺は応えず、コンビニ袋をがさがさ言わせて弁当を取り出し、パキンと箸を割った。箸は不格好に割れてしまったが、俺は平然と弁当を食べ始めた。アンバランスに割れた箸は食べづらかったが、それを父に悟られたくはなかった。
「翔太。通勤って、大変か?」
俺は「答えられません」と言うかわりに口一杯に満腹弁当の白米を詰め込んだ。父は小綺麗なホームレス、といういでたちだった。病気で仕事ができず生活保護を受けていた、と、聞いている。
「景気どうよ?いいのか?」
 俺は満腹弁当のナポリタンを黒烏龍茶で流し込んだ。
「あ、俺、翔太の会社、何やってるか知らねえわ。ははは」
 と、大して面白くもないくせに大げさに笑った父に妙に腹が立ち、俺は父を
ジロリとにらみつけた。
 すると、父は笑いを引っ込め、連れの女性に向かって「こいつ、俺の息子」
と、説明をした。女性は小さくうなづいた。
「どちらさまでしょうか」

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